「成る程……。うーん、すぐに完成するかは解らないけど、やってみるだけやって見てあげるよ」
New year,New killer.
年が明ける数日前にわざわざあんな危ないカヅサの研究室などに足を運んでまでしてフィアが頼んだもの。
「フィア君!はい、これ約束のもの」
元旦。
クリスマスには任務や仕事に明け暮れていた武官達にもほんの少しの休息は勿論必要だ。カリヤ院長のそんな粋な計らいのお陰で毎年、年が明けたこの日の夜は武官達での新年会が行われるのが恒例になっている。
「ありがとうございます!助かりましたカヅサさん……」
カプセル型の薬のようなものをカヅサから受け取るフィア。そんな2人を不審そうに見ているのは同じ武官のエミナとクラサメで。
「クラサメ君、あれいいのかしら?」
「……良くは無いんだろうな」
事情は2人とも知らなかったが、カヅサからフィアが薬を貰っている。見ているだけでとてつもなく不安な光景だ。
「フィア、何を貰ったんだ?」
「あ、クラサメさん」
エミナに促されてフィアとカヅサに一声掛けるクラサメ。彼らの横を忙しなく走り回る従卒の手には重たそうな瓶やグラスが握られていた。
クラサメに気付いたフィアはにっこりと微笑みながら彼に向き直る。そうすることで後ろにいたエミナにも気付き、フィアの笑みは更に深まった。
「ほら、今日新年会じゃないですか。わたし、アルコールそんなに強いわけじゃないので」
フィアの話によれば、酒にそんなに強くないのに何故か毎年毎年必ず年上の武官達に次々と酒を進められ、最終的には自制してそれを断らなくてはいけなるなるのが嫌らしい。嫌な顔されることも稀にあるし、だったらカヅサに酒が回りにくくなる薬を作って貰って新年会に挑めば良いのではないかと思ったそうだ。
「ああ……、みんなフィアが酔う姿が見たいのね、きっと」
「………」
なんとなく武官達の思惑を察して、良い気のしないクラサメを代弁してエミナが呟いた。
「ほんと困っちゃうよね。フィア君はクラサメ君のなのにねえ?」
「っカヅサさん!」
直接的な表現にフィアの顔が赤らむ。
咎めるフィアの横で、クラサメがゆっくりと息を吐いた。
「フィア」
「はい?」
ちょいちょい、と手招きされて不思議に思いながらもクラサメに近寄るフィア。耳を彼の顔の近くに傾けると。
「私の隣に座れ」
「え、あ……はい」
そっと囁かれたクラサメの言葉に少しばかり胸が高鳴った。きっとフィアのためを思って掛けてくれたその言葉に、思わず頬が緩みそうになる。
「じゃあクラサメ君の反対側は私が座るから、ばっちりフィアを守るから安心してね!」
「エミナ!」
心強すぎる同期組の申し出に、フィアは心底感謝した。
*
……はずだったのだが。
「……どうしてこうなった」
低く重苦しい溜息をクラサメが吐いた。
エミナも頭を抱えている。
「ごめんねクラサメ君、僕じゃ席が遠くて、しかも酔った軍令部長に絡まれてフィア君から目を離しちゃったんだ……」
同期3人はほぼ同じタイミングで溜息を長く吐き出した。