大嫌い、キミと聖夜。(3/3)

「そばにいてあげなさい」と言い残し出ていったアレシア。
諜報部の助っ人的な扱いで任務に参加していたクラサメ。忍び込んだ先の研究所で問題無く作戦をこなし帰投しようとしていた矢先、味方兵士の1人が犯したミスから起爆装置が作動したらしい。そんな中で彼は既に外に出ていたにも関わらず、研究所内に残されてしまった味方兵士を救出に戻ったのだ。

「………」

暫くフィアは扉の前から動けなかった。

クラサメのおかげで味方は全員無事脱出することが出来たのだが、リスクを負って戻った彼と数名の兵士が爆発に巻き込まれたらしい。
どれくらいそうしていただろうか。
漸く彼女はクラサメの元に足を向ける。ベッドサイドに着いた頃には勝手に膝の力ががくりと抜けていた。

「クラサメさんっ……」

ベッドの右側。座り込んで目の前にあった彼の手を握った。あたたかかった。

彼らしくない。味方を庇って爆発に巻き込まれるなんて。そう思いながらも、今のフィアはただ祈るしか出来なかった。彼が、目覚めますようにと。




*




あたたかい何かがそっと頬を撫でる。
確かめるようにゆっくりと。指先が、手のひらが、包み込むように覆われ、そこで落ち着いた。
微睡む意識の中うっすらと瞼を持ち上げれば、新月に似た形に開く碧い…―――

「っクラサメさん!?」

ばっと起き上がると頬から手が離れた。

「っ……」

涙が、一気に溢れ出しそうだった。
目頭が熱くなる。涙腺が刺激されてつーんとした痛みが目元を襲う。ぎゅっと、クラサメの手を握った。

「そんな顔、しないでくれ……」

くぐもった声でそう言い、薄く笑うクラサメ。そんな彼の声を聞いた瞬間、堰を切ったように涙が溢れてくる。

「だっ……て、……っ」

ゆっくりとクラサメの腕が動いて、ポロポロと落ちるフィアの涙を指先がそっと拭う。けれど幾ら拭っても、それは止まることは無く。フィアは堪らずクラサメの額に自分のそこをくっつけた。
碧い瞳を近くに捉え、また涙が自然と流れ落ちる。睫毛を濡らすそれが零れて、クラサメの頬に流れた。

「クラ、サメ、さんっ……」

目覚めたら外していいと言われていた酸素マスクをそっと外す。頬にあったクラサメの手がするりと滑り、親指がフィアの下唇を撫でた。

「……フィア」

掠れた低い声でそう名前を呼ばれ、まるで吸い寄せられるように触れ合う唇。
あたたかいクラサメの唇がとても懐かしいような気持ちになってしまい、また涙が止まらなかった。

「今、時間は?」

鼻先が触れる距離でクラサメが呟く。
フィアは少し離れて自分の腕時計に視線を落とした。

「2時過ぎです。深夜の」

そう告げるとクラサメはゆっくりと目を閉じてまた、開いた。少しばかり傷は痛むのだろう。呼吸はほんの僅かだがいつもより早い。

「クラサメさん?」

握ったままだった手を引かれて、クラサメの上に身を乗り出すような形になるフィア。不思議がりながらも彼女はされるがまま。

「ちょ、っわ……!」
「っ……」

彼の上に倒れないように気を遣っていたのだが、そんなことお構い無しに腕を思い切り引かれてベッドに倒れ込む。
勿論クラサメにぶつかって、痛そうに息を詰まらせる声が聞こえた。

「っごめんなさ……」
「いや、大丈夫だ」

慌てて退こうとするとそれより先に彼の手が伸びてきて抱き締められる。
点滴の管がゆらゆらと揺れていた。

「クラサメさん……」
「毎年、約束も碌に守れないな」

自嘲するような声が聞こえてそっとクラサメを抱き返した。あなたは悪くないのに、と伝えるために。

「寂しい思いばかりさせて、すまない」
「いいんですよ。クラサメさんがちゃんと帰って来てくれれば」

見上げると、少しだけ微笑んだクラサメの顔。フィアは伸び上がってそんな彼の唇にもう一度ゆっくりと触れる。
背中に回る手が腰に置かれて、彼の手がまた頬を撫でた。

「プレゼントは、私でいいか?」

ふっと笑うクラサメにつられ、

「勿体無いくらいです」

フィアも満面の笑みを彼に向けた。
やっぱり、クリスマスなんて大嫌いだ。




* fin *
2011/12/26 了
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