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「えーと、今日提出の課題が出てないのはナインとケイト。で、これもナインとケイトだけで」
教科書と課題のノートと自分用のファイルを抱え、武官の部屋が並ぶ廊下を歩いていた。そこでふと大事なことを思い出して立ち止まる。
「カヅサさんに呼ばれてたんだ」
何でも「クラサメくんの身体ならよく知ってるから風邪も一発で吹き飛ばす薬を作っておいたよ」とのこと。よっぽどアレシアの処方する薬を飲んだ方がクラサメの為だと思うのだが、行かないと行かないでまた後が怖い。
「……行こう」
決意したように顔を上げ、フィアはクリスタリウムへ足を進めた。
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「いや〜クラサメくんでも風邪引くんだね。彼、健康体だと思ってたんだけど」
少し構えながらカヅサの研究室に向かって見ると、案外あっさりとカプセル状の薬を渡された。
「最近寒くなってきたけど、裸でそのまま立ってたりでもしたのかな?」
「クラサメさんに殺されますよ」
真面目に彼を心配しているのかと思いきや、とてもそうとは思えない発言にフィアはしっかりと突っ込んだ。
「いやでもほら、フィアくんだって風邪引いてなあい?」
「へ?」
突然話の矛先がフィアに向いた。クラサメの風邪の話をしていたのに、何故そこでフィアまでもが風邪の心配をされるのだ。
「なんでわたし?」
純粋に意味がわからなくて首をかしげてカヅサを見つめる。カヅサはにこにこ(というよりニヤニヤ)と笑っていて、次の瞬間フィアは凍り付いた。
「クラサメくんが裸なら勿論フィアくんも脱いでるよね?恋人同士が二人でやることなんてたかが知れてるだろ〜?」
「っ……!」
ぴしっと凍ったフィアにヒビが入る。
カヅサはあっけらかんと笑っていたが良からぬ事を口にしながら妄想を膨らませているようで。
「僕なんかよりフィアくんの方が、クラサメくんの体に詳しいかもね!」
「っ……ファイガ!!」
クリスタリウムの奥で不審な爆発音が鳴った。
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結局カヅサから薬は預かったものの、これをクラサメに飲ませるにはやはり少しばかり不安だ。彼には今朝アレシアから貰った薬を引き続き飲んでもらおう。
「ええと、課題の解答をクラサメさんの部屋に取りに行って」
絶対安静の彼の代わりにフィアが課題の採点をしようとしているのだが、勿論解答用紙が無ければ始まらない。
行き慣れていないわけではないのだが、部屋の主が寝ていること前提で部屋を訪れるのはなんだか少し緊張する。
「クラサメさん、フィアです」
ノックを2回して呼び掛けた。返答は無かったけれど大丈夫だろう。
「入りますね?」
ゆっくりと扉を開いて中を覗き込む。比較的広々とした部屋の隅にあるベッド。その布団が膨らんでいるのが見えてなんだかホッとした。
(着替え中とかじゃなくて良かった)
フィアは静かに扉の中に消えた。
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