affection.(3/3)

「そんな、違いますよ。クラサメさんの所為じゃなくてわたしが……っ」

わたしの力が及ばなかっただけ。
そう言いたかった言葉は彼によって遮られてしまった。気が付くと視界は少し暗くなっていて、起き上がっていた上半身を強く抱き締められていた。

「ク、ラサメさ」
「フィアが無事で良かった」

胸がぐっと締め付けられた。
広い彼の胸に頬がくっつき、心地のいい体温がそのまま伝わってくる。背中に回された手も、ゆっくりそこを撫でてくれていてあたたかい。

「クラサメさんが来てくれなかったら、死んでたかもですね」

しかもたぶんとても惨い殺され方で。
今となって考えるとゾッとする。そうするとなんだか堪えていた不安が一気に押し寄せてきて、視界がゆっくりと揺らいでくる。縋るようにクラサメの服を掴んで胸に顔を埋める。
抱き締めてくれる力が強まった。

もし自分が死んでしまっていたら、きっと彼は今頃自分を覚えていない。クリスタルの影響でフィアのことなどキレイさっぱり忘れていて。

「っ……ごめ、なさ」

涙がポロポロとこぼれ落ちて、嗚咽に気付いた彼はそっとその指で涙を拭ってくれる。グローブ越しでも感じるあたたかさに余計に涙の量が増して、止めどなかった。

「泣き虫」

そんなフィアに苦笑いしつつ、慰めるように頭を撫でるクラサメ。

「っう、だって」
「0組の連中に見られたら、からかわれるぞ?」

自分たちの副隊長が子供の様に泣いてる姿なんて発見したら、思い切りからかってくるだろう。ジャック辺りなど特に。それに便乗してケイトが笑ってきて、咎めようとクイーンが怒って、簡単に連鎖反応が想像出来てなんだかとても可笑しかった。
それが顔に出たのか、不思議と涙が止まりフィアに笑顔が戻る。

「フィアは昔からよく泣いてたからな」

背中をトントンとゆっくり叩きながら彼は笑った。確かに候補生時代にも彼にこうして慰めてもらったことが何度かあった気がする。そう考えるとやっぱり自分の方が年下で、少し情けなかった。

「だから、放っておけなかった」
「え?」

腕の中からクラサメを見上げた。
優しいエメラルドが此方を見つめていたけれど、その先の言葉はなかった。
数日前彼に問おうとした「実のところ自分のことをどう思ってるのか?」と言う質問の答えが出た気がする。彼に聞かずとも。

「クラサメさん」

なんだか彼に申し訳ない。
考えて見れば言葉ではなく、いつも行動で彼は自分への愛情を表現してくれているではないか。不器用ながらに精一杯。
名前を呼んでじっと見つめると、綺麗な目が細められた。

いつも口元を覆っているそれがすっと外されて、瞳を閉じると頬に彼の手が触れて。

「フィア」

胸を震わせる程大好きな声で名前が呼ばれて、柔らかな感触が唇に触れた。


*fin*
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