affection.(3/4)

「魔導アーマーの工場に?」

あれからすぐに院長室を訪れると神妙な面持ちのカリヤ院長が迎えてくれた。

「軍令部長の報告によると工場の規模はごく小規模なもの、となっています」

皇国軍の魔導アーマーを生産している工場、と言ってもデータやシステムの管理を行う小規模な工場。言い渡されたのはその工場に潜入してデータやシステムを破損させ、且つ研究員を排除してくる重要なミッションだった。

「ことを荒げずに内密に行って頂きたいのですが、引き受けて貰えますか?」

現役ではないにしろ、前線に出てミッションに参加することは今でもよくやっていた。小規模な工場くらいであれば1人でなんとか出来るだろう。

「勿論です。他の武官の手を煩わせるような真似致しません。わたし1人で十分です」

背筋を伸ばしてそう答えると工場周辺の地図と潜入の為の皇国軍の制服を渡された。

「工場内では一切の通信手段が裁たれてしまいます。くれぐれも無理だけはしないでください」

制服を腕に抱え直す。
院長室の高い窓から降り注ぐ日の光が、彼が笑った時の雰囲気に似ていた。





***





ミッション前夜。
夜に行う武官達のブリーフィングに出ずに、院長室でミッションの確認を行っていた。勿論院長からお許しが出ている。けれどあくまで極秘の任務。そんなフィアの事情なんか他の武官は知らない。

「ブリーフィングはどうしたんだ」

夜の冷たい空気を揺らして、彼の低い声が広がった。少し驚いて振り返ると、怒っているのか呆れているのかわからない彼の顔。半分が鈍色のマスクで覆われているため、少し遠目だと表情を読み取るのは難しかった。トンベリの姿は見当たらない。

「ちょっと、別の用事がありまして」
「別の用事?」

隣に来ると彼もフィアと同じようにテラスの手摺に体を預けた。

「ああ、院長のか」

なんて勘の良いことだろう。けれど話すわけにはいかず、フィアは肯定も否定もせずにただ黙っていた。
就寝時間は過ぎているためテラスにはフィアたち二人だけ。それから暫くはただ沈黙だけが流れていた。この時間のテラスは当たり前だが少し肌寒い。
きっとそれはクラサメだって同じはずなのに、何も言わずに隣にいるだけの彼が気になってちらりと視線を向けてみる。

「っ」

すると、目が合った。
咄嗟に顔を背けようとしたのだが、射るようにそのままじっと見つめられてしまって逆にそれは叶わなかった。
エメラルドの静かな瞳が此方を黙って見つめている。

「っく、クラサメさん?」

けれどその内我慢しきれなくなって、絞り出すような声で彼に呼び掛ける。思ったより情けない声が出てしまった。
フィアの呼び掛けに彼は何も応えず、視線を外すとくるりと踵を返してエントランスホールに繋がる魔方陣へ向かって歩き出す。

「無茶はするなよ」

去り際に一言呟きぽんっとフィアの頭に手を置いて、今度こそ彼は歩き出した。
掛けてくれた言葉の真意をすぐに汲み取って、なんだか胸が暖かくなる。遠くなる背中に抱きつきたい衝動に駆られたけれど、怒られそうだったから今日は彼の言葉の余韻だけを楽しむことにした。

next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -