affection.(2/4)

「いえ、やっぱりいいです」

話そうか迷ったところでやはりやめることにした。考えて見ればこんな大衆集まる場所で聞くことではないし、彼だってきっと嫌だろう。
怪訝そうな顔をする彼だったけれど、そろそろ休憩時間が終わるのでは?と告げればあっさりと引いてくれた。去っていく彼とトンベリの背に手を振って、フィアもエントランスの中心にある魔方陣へ消えた。



*



「……聞けなかったな」

やって来たのは見晴らしの良いテラス。
授業開始時間が近い所為か候補生達の姿は無く自分の履いているブーツの靴音だけがコツコツと響く。
そりゃあ考えて見れば聞けるはずがないだろうに。「実のところクラサメさんわたしのことどう思ってるんですか?」なんてあの氷剣の死神に単刀直入に聞けるだろうか。

「任務だったら出来なくもないのに」

無論、そんな任務が下される事は無いに決まっている。だいたいこの戦時中にそんな浮かれた話を生真面目な彼に出来るわけがない。絶対出来ない。出来ない。

「ああ、自己嫌悪……」

だらんと手摺に項垂れる。
オリエンスの世界はこんなにも広いと言うのに、彼の心は一体どれくらいの広さなのだろうか。




***




「あ、フィアさん居た〜」

あれから数日。
次の時間、0組の授業を任されていたフィアは分厚い教科書と参考書を幾つか抱え廊下を歩いていた。

「シンク?」

気の抜ける様なまったりとした声に呼び止められて足を止める。楽しそうに此方に歩んで来るクルリと巻かれたサイドの髪が印象的なシンク。彼女とは不思議と馬が合うようで、よく一緒に日向ぼっこをする仲だったりする。

「さっきね、たいちょーがなんかフィアさん探してたよ〜」
「クラサメさんが?」

フィアが彼を探すことはよくあるのだけれど、彼がフィアを探すことは珍しい。

「何か言ってたかな?」
「後で第二作戦課に来てほしいって〜」

作戦課、ということはきっと仕事上の話だろう。少し期待した自分が憎らしい。

「ありがとうシンク、授業終わったら行ってみるね」

そこでタイミングよく予鈴が鳴った。

「今日の授業は日向ぼっこかな〜?」
「残念だけどそうはいかないよ」

こつん、とシンクの額をつついて見せると彼女は楽しそうに「えへへ〜」と笑みを見せた。



*



「カリヤ院長がですか?」

第二作戦課に足を運ぶと奥のディスプレイの近くに彼はいた。傍らにはしっかりとトンベリが付き添っている。
声を掛けるとすぐに気付いてくれ、用件を伝えられた。

「ああ。なるべく人の目に触れないよう来てほしいとのことだ」
「人の目に?」

カリヤ院長直々に話があるなんてこれまた珍しい。もしかすると何か重要な任務の依頼だろうか。

「わかりました。わざわざありがとうございます」

そう言うとクラサメの表情が少しだけ和らいだ。多分院長からの言伝てを伝え終えたからで、まったく生真面目な人だ。

「最近、ちゃんとトンベリの相手してあげてますか?」

オフのスイッチが入ったらしい彼に、自然と話を続けていた。心なしか瞳の色が優しいそれに変わった気がする。

「子供じゃないんだ、その言い方は語弊があるんじゃないか?」
「確かに……キミ、いくつだっけ?」

しゃがみ込んでトンベリの宝石みたいな目を見つめる。キラキラと輝く金の瞳。暫く見つめたまま沈黙が続く。

「………」
「話さないぞ」

トンベリと見つめあっているとクラサメが溜め息交じりに呟いた。

「三千六百五十七歳だそうです」
「……嘘をつけ」
「いたっ!」

立ち上がって直ぐに額を小突かれる。

「痛いじゃないですかー」
「君なら大丈夫だ」

額を抑えて彼を睨むと、楽しそうに目が笑っていた。

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