RAY OF LIGHT(4/4)

不意に自分の唇に触れてみる。
唇を重ねたのもあの日が最後。
あの生真面目なクラサメにしては珍しくカリヤ院長の放送の言葉の最中にも何度も何度も求められた。
いけないとわかっていてもお互いを求める気持ちが抑えられなくて、結局フィアも流されて。

しかしどうやらその放送で武官達への今後の指示も出していたようで、そのあと2人で軍令部長にたっぷりと嫌味を聞かされてしまったのだが。

「ま、たまには、ね」
「そうだな。たまには、な」

「ですよね、たまには息抜きだって……」と話すフィアの語尾がだんだんと小さくなり、彼女はばっと振り返った。
次の瞬間フィアの表情は驚いたものに即座に代わり、彼女の体は傾いていた。

懐かしい温もりと香りが体いっぱいに広がって、フィアの背筋は震えた。
見上げようとすると待っていたとばかりにそのまま唇を塞がれ、息が出来なくなる。まるで呼吸を奪う様に舌が絡められて。ぐっと腰を引かれて体が密着した。

「んん、っ、ク、ラサメさ」
「久しぶりだな。元気だったか?」

突然の不意打ちでのキスに少しだけ弾んだ息を整えようとすると、そんなフィアの様子を楽しそうに見つめながらクラサメが言った。
腰に当てられた手はそのままに、彼との距離は密着したまま。

「久しぶりって、なんでここ、ううん、何しに」
「おまえに会いに来たんだ」

ポン、と頭に手が置かれてそっと撫でられる。
梳くように髪の隙間に指を通され、またゆっくりと顔を引き寄せられる。唇がふわりと触れる。

「クラサメさん……」

鼻先がくっつく至近距離で彼の名前を呼ぶとそのエメラルドの瞳に自分が映される。他人の目に映る自分の姿が確認できるのなんてクラサメぐらいで。
白虎の気候では夜は冷える。少し肌寒いこの夜空の下、ピタリと寄り添うクラサメの体温はとても心地良かった。

見上げるとキラキラと輝く星たちが2人を煌々と見下ろしていて。再会を祝ってくれているような、2人を歓迎しているような。そんな空だった。

「嬉しいですけど、会いに来たはついででしょう?」

寄り添う体温が当たり前になってくると、寂しかった気持ちが悪戯心に変わる。自分の背より上にある肩から伸びるクラサメの腕にフィアも自分の腕を絡めた。

「嘘ではない。フィアに会いに来たのが最優先事項だ」
「仕事のクセに」

チラリ、と横にいるクラサメを見やると。

「仕事はついでだ」
「っ……!」

ちゅ、と僅かなリップ音がひんやりとしたテラスに響いた。
2度目の不意打ちはフィアには効果てきめんで。またクラサメはおかしそうに笑う。

「も、クラサメさんずるい……」
「褒め言葉として受け取っておこう」

熱くなった顔を悟られないように、額を彼の胸にぐいぐいと押し付ける。くすりと笑うような空気の音が聞えて、フィアは更に自分の頬が赤く染まるのがわかった。
あやしてくれるようにクラサメの手が背中に回りぎゅっと抱き締められる。

零れ落ちそうな夜空の雪が、薄暗く2人を照らす。
クラサメは意地悪そうに軽く微笑むと、赤く色付くフィアの耳にそっと手を伸ばした。


*fin*
2012/09/17 了
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