RAY OF LIGHT(3/4)

あれから更に1ヶ月。
相も変わらずカトルとの痴話喧嘩漫才は続いており(本人たちは仲良くやっていると思っているが)すっかり白虎の総督府では名物な2人になっていた。
話し合いも何もかもが怖いくらいに順調に進み、世界は平和へ向けて徐々に変わり始めている。上手く行きすぎて、空から何か悪の帝王でも降ってくるのではないかと思うくらいだ。

「んー、あとはこっちの書類に目を通してもらって、今日の分は終わりです」

カトルのデスクに朱雀のマークが入った書類を差し出す。もう何度も繰り返してきた動作だったが、さすがに2人にも疲れが見えている。
明るかった外はすっかり暗くなり、大きなガラス窓にはどこまでも続く暗闇が広がっていた。そこにぽつぽつと見える白虎の街の明かり。

「ご苦労だったなフィア。これなら今日はもう私1人で大丈夫だろう。部屋に戻って構わないぞ」
「え?」

珍しくそんな気の利いた言葉を言われ、一瞬フィアは目を丸くする。

「今日はもう休んでいいと言っている」
「は、はあ……」

確かに最近はずっとこの短絡な作業で地味に疲れは溜まっていた。カトルの気遣いは有難い。しかし何か裏があるのではと疑ってしまうのは職業柄の悪い癖だ。
ぱちぱちと瞬きしながらカトルを見つめていると軽く溜め息をつかれた。

「何も裏などあるわけない。人の好意は有り難く受けておくべきだと思うが?」
「そう、ですよね。有難うございます」

カトルのその言葉に少し安堵しびしっと姿勢を正してフィアは頭を下げた。
一言、二言交わしてカトルの執務室を後にしようと扉に手を掛けた時だった。

「そうだ。たまには肩の力を抜いて、テラスにでも行ってみてはどうだ?」
「テラス?」

そういえば白虎の総督府では必要最低限の場所以外へ行く事はあまりなかった。一応決められた範囲内では自由に行動を許されているのだが。

「イングラムの夜景も、なかなかだぞ」

確かにいつも執務室から見える夜景は結構綺麗だったりする。フィアはくすりと笑みを1つ溢し、カトルへ笑い掛けた。

「ありがとうございます、気が向いたら行ってみます!」
「ああ、おやすみ」

パタリ、と執務室の扉を閉めた。



*



白虎の総督府は広い。
勿論朱雀の魔導院も広いのだが、如何せん慣れと言うものがある。
部屋に戻って寝る支度をするにも早い時間。せっかくカトルが好意でテラスのことを教えてくれたのであるし、なんとなく気が向いたのだ。

「わ……星が綺麗」

少し迷いつつ辿り着けたテラスには人気は無かった。けれど代わりに、人と同じくらい存在感のある星達がフィアを迎えてくれた。
暗い藍色の空を埋め尽くすように散りばめられたキラキラと光る星。今にも零れ落ちてきそうな星、とはこう言うことを言うんだろう。

「終戦、かあ」

誰もが望んでいたその2文字。
勿論フィアだってそれを望み、目指して戦ってきた1人だ。オリエンスの平和をただひたすら求めて。

「でも、ちょっと」

望んでいた日が訪れたことを、2人も本当に心の底から喜んだ。人前を気にせず抱き合うほど。
けれどその日から違う任務を命じられ本来は同じ組織に所属しているはずなのに違う場所に振り分けられ、もうまともに会ってすらいない。

「会いたいな……クラサメさん」

彼の笑顔を見たのは終戦宣言のあの日、0組の教室で見たのが一番新しいもの。

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