▼ Sadness(1/3)


エアリスが居なくなった時、セフィロスを憎く思う気持ちも生まれる反面、本当は少し嬉しがってる自分がいた。



「ナマエ、店の看板しまうぞ?」

バータイムもそろそろ終わりの時間。
マリンとデンゼルを連れてゴールドソーサーに外泊しに行ったティファ。そんな彼女に変わってセブンスヘブンの店番はナマエとクラウドの二人でやっていた。
たまにはティファにだって息抜きが必要だ。子供二人を連れて息抜きになるのかと言われると答えづらいけれど。

全ての戦いが終わった後、帰る場所の定まらなかったナマエはティファの店であるセブンスヘブンの手伝いをしながらこれからのことを考えていた。

「ありがと、クラウド。疲れたでしょ?何か飲む?」

元々は神羅の人間だったクラウドとナマエ。神羅に関わってからいろいろな物や大切な人を亡くしていた。
クラウドのことは昔から知っていて、まだ初々しくてキラキラとした瞳でソルジャーに憧れていた頃の彼。考えてみればその時からナマエはクラウドが好きだった。

「いや、俺は平気だ。ナマエこそ何か飲んだらどうだ?」

クラウドは優しい。それは昔も今も変わらない。
コルクボードの看板をドアの横に置くとクラウドはカウンターまでゆっくり歩み寄ってきた。煌々と灯る明かりに映し出されたクラウドの瞳。澄んだ空色の綺麗なそれは魔晄を浴びた証。ふと、昔の同僚が思い起こされて心が痛んだ。エアリスも彼のこの瞳に何か感じる物があったのだろうか。

「ナマエ?」
「え、あ、うん…わたしも平気!」

一瞬だけ飛んでいたナマエの思考をクラウドが呼び戻す。慌てて顔の前で手を振ってなんでもないと告げる。
メテオ事件後、エアリスやザックスの話題をクラウドとあまり話すことはなかった。なんだかお互い触れてはいけない過去の出来事のようで、それでいて。

(クラウドはまだエアリスの事気にしてるよ、ね)

きっと二人とも両思いだった。
いや、もしかしたらエアリスはザックスの影をクラウドに重ねていたのかもしれない。旅の最中もザックスのことを考えると二人の仲を応援せざるを得ず、クラウドに自分の思いを伝える事なんて出来なかった。
してはいけないような気がして。

(それに、わたしは)

エアリスがセフィロスに殺された時、確かにナマエの心は悲しみで埋め尽くされただけではなかった。悲しみ、憎しみ、怒り、それ以外の感情も混ざっていた。カウンター前の椅子をクラウドが逆さにしてテーブルの上に置いていく。グラスを磨きながらナマエはぼうっとその姿を見ていた。

「ナマエとこうやって二人になるの、珍しいな」

作業の途中クラウドがポツリと洩らす。無意識に彼の方を見ると目があってしまった。咄嗟に思い切りそれを逸らしてしまって、ああなにやってるんだ馬鹿と自分を罵るナマエ。

「そ、そうだね。ティファやマリン達もいるし、何よりここだとお客さんもいるしね」

少し早口になってしまった。
普段こんな風に話しかけられても全然大丈夫なのに、今は考えていることが考えていることだけにテンパってぎこちない態度を取ってしまう。決してクラウドには知られてはならない。いや、他のみんなにもだけど。

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