▼ Rage(1/3)


「次のミッションで恐らく、今後の戦況の全てが決まる。まあ、その時私がそこに存在しているかは、わからないが」

彼が見やったルブルムの景色はとても広くて、それでいて孤独だった。

「っそんなこと言わないでください。わたし、戦争が終わったら、クラサメさんに伝えたいこと……」
「ナマエ」

視線も合わさずに、静かに呼ばれた名前がテラスの風に揺さぶられてナマエの脳裏に凛と響いた。
周りにいるのは彼ら2人。ただ流れる穏やかな風と時間とは対照的に、彼らの会話は冷たい音を滲ませていた。

「私が死んでも、覚えていてくれるか?」






「は、馬鹿じゃねぇのかコラ。おまえのことなんか、忘れたくても忘れられるわけねーだろ」
「ナイン?」

特徴のある雑な言葉使いは顔を見ずとも誰だかわかった。けれど反射的に振り向いたナマエは魔方陣から此方にダルそうに歩いてくるナインと目が合った。
ナマエの隣にいるクラサメは小さな溜め息を吐くも振り向きはしない。

「それが指揮隊長に対する言葉使いか」
「うるせぇよ。次の出撃、俺らの所為なんだろ?あぁ?」

注意された言葉使いを直そうともせず喧嘩越しに話を進めるナインに、クラサメは先程より盛大にまた溜め息を吐いた。すっとナインへ対峙して、腰に手を当てる。

「違う。招いた結果は全て自己の責」
「違わねぇだろ?話逸らしてんじゃねぇぞコラ。大体、てめぇが死んだらって何だよ死んだらって」

今にも掴み掛かりそうな勢いのナインにまったく怯むことはなくクラサメは一瞬だけナマエの方へ視線を向け、すぐにナインへ向き直る。

「どんなに経験があっても体は正直だからな。大規模ミッションにフルで参戦するには十全とは言い難いだろう?」

クラサメの言葉にはナインだけでなくナマエも少しばかり表情を歪めた。
先程まで彼と2人、次のミッションについて話していたし、クラサメの当たる任務がどのような物かナマエは理解している。その任務内容自体が受け入れ難く、冒頭の会話に発展したのだが。

「てめぇが死んだら寝覚めが悪ぃだろ」
「大丈夫さ。私が死んだら、クリスタルが忘れさせてくれる」
「クラサメさん……」

何故こんなにも簡単に“自分の死後”の話が出来るのか。勿論今更死が怖いなどと言うよりはずっと、ずっと逞しいのだろうが。

「ナマエは、こいつはどうすんだよ」

ナインが小さく呟いた言葉に刹那、クラサメの眉間が動いたのだけれども。
クラサメは曖昧に笑うとナマエの頭をぽんと叩いた。ふわりと触れるように。
そうして上着のマントを翻し、ナインの横を通り過ぎた。

彼を包む空は余りに大きくて、青すぎた。

「忘れられるかよ……てめぇみたいなムカつく奴のこと」

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