▼ Pain(2/3)


「ナマエ……さん?」

項垂れるマキナの気分とは裏腹に、燦々と朗らかな太陽の陽射しが降り注いでいる窓際の席。自分のよく知っている人物が机に伏しているではないか。
魔導院の武官であり、0組の副隊長であり、自分の恋人であるナマエ。

「ナマエさん、演習行ったんじゃ……」

そんな彼女のすぐ傍まで近寄ってマキナは言葉を切った。
入り込んでくる陽の光に照らされる彼女の瞳は閉じられている。よくよく耳を澄ませばすやすやと心地良さそうな寝息が聞こえてきて。

「なんで……ここで寝て」

理解するのに少し時間を要する状況。
今日は朝から頭の回転が忙しい。
副隊長と言うだけあり勿論彼女もクラサメの他に授業や訓練を担当している。実戦演習ともなればクラサメと2人、現地に向かうはずなのだ。

だと言うのにその副隊長本人は今、魔導院の0組の教室。マキナの目の前の席で陽射しに照らされ眠っている。

(もしかして演習じゃ……ない?)

こうも堂々と、普通に眠られていては自分の記憶違いかと不安にもなる。
けれど教室には他に誰もいない、ホールや廊下も勿論授業中のため人はいない。

(オレ、どうするかな……)

ガシガシと頭を掻いてから、一先ずナマエの座っている隣の席にそうっと腰を下ろしてみる。
背の高い窓から降り注ぐ陽射しが少し眩しい。何気なく眠っているナマエに視線を落とす。



―――マキナくん、ごめん、ごめんね

―――守って、あげられ……かった

―――好き、だ、よ……


「っ……!」

ガタッと、思わず椅子を引いた。
まるで走馬灯のように甦ってきた今朝見た夢の内容。瞼の裏に焼き付いた血塗れのナマエ。それを支える自分。

「ん……あれ」

授業に遅刻したことと、教室にナマエを除いて誰もいないことですっかり忘れていた嫌な夢の内容。
拭いきれない縁起の悪いそれを何とかしようと必死なマキナは隣の人物が目を覚ましたことに気づかなくて。

「マーキナくんっ」
「っナマエさ、ん……!?」

驚いて後ずさったマキナの体は椅子からずり落ちて、さっき彼が立てた音よりも盛大な音が鳴る。
楽しそうに名前を呼ばれたと思えば、本当に目の前にナマエの顔があった。

「ちょ、あはは、大丈夫マキナくん?」
「い……てっ」

背中を擦り小さく唸るマキナ。そんな彼に苦笑しいながら手を差し出すナマエ。
素直にその手を取り、椅子に座り直すと彼は申し訳なさそうにナマエを見た。

「ごめん、急に目覚ますからびっくりして……と言うかナマエさん、演習は?」

何から話せばいいか迷ったが一番最初に聞いておくべきはこの話題だろうに。率直に聞けばナマエはおかしそうに笑う。

「と、言うかマキナくん、演習は?」

ゆっくりとそう呟かれてくすくすと笑われる。言われたマキナは苦虫を噛み潰したような表情で眉間を寄せた。

「ナマエさん……それは」
「あはは、ごめんごめん。院を出発する時間になっても一向にやって来ないマキナくんを待ってるように、クラサメさんに言われてね」

益々苦くなるマキナの表情。
ナマエはまた表情を変えて笑いながらマキナの頬を人差し指でつんつんと突っついた。

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