▼ Separation(3/3)![]() 少し強めに掴まれた腕。 なんとなく、振り向きづらい。 妙な沈黙が流れてからまたカトルの溜め息が聞こえて、びくりとナマエの肩が跳ねた。呆れられてしまっただろうか。 「何を考えてそんな思い詰めた顔をしているか知らないが、私が今こうしておまえの傍にいる。それでは駄目なのか?」 ハッとして、俯いていた顔を上げる。 背中にじんわりと染みるカトルの声。 彼の言葉はいつも温かくて、真っ直ぐで。 「クリスタルだろうが私の意思までは変えることはできない。私は私の意思でおまえの、ナマエの傍にいるんだ」 ぐいっと、腕が引かれて。 「っカトルさん」 崩れたナマエの体をしっかりとカトルは受け止めてくれて、思わず彼の胸に手を付いた。厚い胸板が頼もしくて、それでいて逞しくて。安堵から肩の力がふっと抜ける。 「不安になる必要など、無いだろう?」 ぎゅっと抱き締められて交ざる体温。 触れる箇所から熱が生まれるみたいに。 縋りつくようにカトルの首に腕を回すとしっかりと抱き返されて、彼の肩に顔を埋める。鼻腔に広がるカトルの香り。安心感を与えてくれるそれ。 「わたしも、ちゃんと」 少しだけ顔を離して、カトルの瞳を見つめる。絡み合った視線を頼りにちゃんと自分の思いを告げようと。 「自分の意思で、カトルさんが好き」 言葉にするとなんだか照れくさくて、さっきまで沈んでいた気持ちが嘘のように顔が熱くて。絡んだ視線を逸らしたいけど出来なくて。 追い討ちを掛けるみたいに顎を掴まれて持ち上げられる。もう逸らせない瞳。 楽しそうに細められた隻眼からはさっきまでの疲れた表情は確認出来なくて。 「上出来だ」 親指で唇を撫でられて、たっぷりと含み笑いで見つめられた後そのまま塞がれ。 ぎゅっとカトルの軍服を掴む。すると更に腰を引き寄せられて体が密着する。 合わせた唇の隙間からカトルの舌が入り込んできて歯をなぞられて、ぞくっと背筋が粟立った。飲みきれない唾液が口端を伝う。 「珈琲よりおまえの方が、疲労回復になるかもしれんな」 そう言ってぺろりと唾液の後を舌で舐められ、薄いブルーの瞳と視線が絡んだ。 「っ……」 途端になんだか気恥ずかしくなりパッと視線を逸らすナマエ。ドキン、ドキンと鳴る鼓動。すっと頬を撫でるカトルの長い指先。 「あ、のカトル准将、わたし、珈琲淹れ直してきます!」 うるさい鼓動に堪えきれず、ナマエはいそいそと立ち上がり執務机の上の冷めてしまった珈琲のカップへ手を伸ばした。 冷たい取手を掴んで、思わずそのカップの側面を頬につけたくなる。 それくらい、顔が熱い。 パタパタと離れた位置にある両開きの扉まで向かい、ノブに手を掛けた時。 「ナマエ」 名前を呼ばれて、後ろのソファーに座っているカトルへ振り返る。 「早く戻って来い、命令だ」 薄く微笑まれて、くらりと視界が揺れそうになって、握ったカップを落としてしまいそうになりながらもなんとか執務室を飛び出して。 ほんの僅かなセパレーション。 *fin* 2012/05/13 了 ▲ |