▼ Sadness(2/3)


開いている窓の外から鈴虫か何かの声が寂しげに聞こえてくる。今日は気温が低かったので窓を開けているだけで十分涼しかった。外の景色は既に暗くなっていて、マリン達はもう寝た頃だろうか。

「クラウド、明日も朝早いんだし今日はもう休んで良いよ?店の掃除くらいわたしがやっておくし、ティファに代理店長任されたのはわたしだし!」

いろいろと考えてしまう。
クラウドと二人でいると。
エアリスのこと、ザックスのこと、神羅のこと、そしてクラウドのこと。
どれも彼にとっては良い話題ではない。そんなことを堂々とクラウドの前で考えているのは失礼だしなんだか居たたまれなかった。

「そう、か」

けれどなんだかそう返してきたクラウドの瞳が少し悲しそうに揺らいでいたように見えたのはナマエの都合の良い解釈だろうか。
人間、自分の都合の良いように物事や出来事を考える事なんていくらだって出来る。だけど少しだけ、少しだけクラウドのそんな表情に胸が痛んだ。

「クラウドいつも自分の仕事頑張ってるし、ね?ゆっくりしてていいよ」

にっこりと、出来るだけ笑顔を作ってクラウドを部屋へ戻るよう促した。
上手く笑えているだろうか。

「旅の途中から、言いたかったんだが」
「ん?」

一度ナマエに背を向けたクラウドが、ぽつりと何か呟いた。咄嗟に聞き返してしまう。

「ナマエは、俺のこと嫌いか?」

ガシャンッ、と磨いていたグラスが割れるような音が頭の中で響く。
正確にはグラスは割れていない。ちゃんと手に握っている。けれどそれくらいナマエは驚いた。思わず目を見開いて、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。

「何言って、……そんなことないよ」

まるで彼の言葉を肯定しているのを隠そうとしているような返答。とても不自然になってしまった。
だけど、嫌いじゃない、大好きだなんて言えたはずがない。

「変なこと聞いて悪い……」

そう一言呟くと今度こそ彼はバーから消えた。去り際に綺麗な金髪の間から覗いた瞳がまたさっきのような悲しげな色に見えたのは、やはりナマエの都合の良い錯覚だろうか。

クラウドが何故あんなことを聞いたのかわからない。ナマエの態度がそんなに変だったのだろうか。旅の途中から聞きたかった、と言っていた。多分それはエアリスがいなくなったあとナマエが自分の妙な気持ちに気付いた辺りからの事。
申し訳ない気分になりながら残りのグラス拭きを再開するも、それからいくつグラスを磨いたかよく覚えていない。

戸締まりや諸々だけは忘れないようにしっかりとチェックして部屋に戻ったけれど、本当に大丈夫だっただろうか。

部屋に戻ったナマエは結局、去り際のクラウドの表情が頭から離れないままぐるぐると一人思考していて。
何かやろうとしていたことがあった気がするのに手につかない。諦めてその日はすぐにベッドに潜ったのだ。しかし。

「……喉渇いた」

ぐるぐる渦巻く思考が心地よい微睡みに変わり、意識を投げやってから数時間。何故か目覚めてしまった。
壁に掛けられた時計で時刻を確認すると深夜とも早朝とも言えないような微妙な時間。なんて時間に目が覚めたんだ。

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