▼ Separation(2/3)


「あんまり無理してると、出撃した時に頭働かなくて的になっちゃいますよ?」

こてん、とカトルの肩に頭を置く。
肩と言っても実際は二の腕辺りになるけれど。心配ついでにからかうような口調で言って見せると頭をポンと叩かれた。

「誰に言っている?」
「完全帰還者さんに」

くすくす笑いながら言うナマエ。小さなカトルの溜め息が聞こえた後に彼女のその笑い声は止んだ。

ガラス窓から入り込む月明かり。
ひんやりとした夜の部屋の空気が不思議と今は心地よくて。カトルの大きな手はナマエの頭を撫でた。

「こうしていると、なんだか懐かしいな」

ナマエの髪をゆっくり梳きながらカトルがぽつりと言う。呟く彼の瞳は優しいアイスブルー。ほんの少しだけ、そんなカトルの目の色に寂しさを覚えながらナマエは体を彼へ寄せた。

彼には年の離れた妹が居た。
そして自身の過失から、その妹の存在を失っている。総督府にある彼の写真の中には横に可愛らしい顔をした少女が一緒に写っていて。
年の差も、もしかしたら同じくらいなのかもしれない。ナマエと。

「わたしは……妹さんではないですよ」

クリスタルの影響から、亡くなった妹の記憶はカトルの頭にも無いし、勿論ナマエだってわからない。会ったことがあるのかすら定かではない。
けれどもし、カトルが今は亡き彼の妹とナマエを重ねて見ているのだとしたら。

不意にそんな事を考え出してしまって、自然と表情が暗くなった。「懐かしい」と言っただけであって、カトルは一言も「妹」などと口にしていないのに。

「誰もナマエを妹などと言ってない」

そう、そんなこと言っていないのに。
亡き存在に嫉妬するなんて、そんな自分に彼女は自己嫌悪に陥る。
彼は「妹」と重ねてナマエを傍に置いていてくれているわけではない、確かにそうなのだけれど。

「おまえは私のことを兄か何かとでも思って見ているのか?」
「っ……ちが」

女の性なのか、はたまた自分だけなのか。
彼の1番は自分だけであってほしいと、身勝手にも思えてしまう。それが誰であっても、例え実の妹だとしても。

「……ごめんなさい」

何に対しての謝罪なのか。
彼女がここに来た時に持ってきた珈琲は執務机の上で冷たくなっている。
急激に冷やされたナマエの思考の様に。

「何の謝罪だ?」

目敏くカトルは聞いてくる。
聞き流してくれないなんて、意地悪だ。

「妹さん、に」

間違ってはいない。醜い嫉妬の感情を抱いてしまっていることの謝罪。
もやもやと晴れない心の霧。
例えカトルが違うと言ってくれたとしても、無意識下の感情なのかもしれない。
そう考えてしまうと思考は沈む一方で。

「わたし、頭冷やしてきますね……」

すっと革のソファーから立ち上がる。
革の擦れる音を背に、カトルの顔など見ずに執務室から去ろうとした。
勿論、そんなのは簡単に阻止されてしまうけれど。

「っカトル、准将」

立ち上がったまま腕を掴まれる。
力の差は歴然としていて、振りほどくにもそれは困難で。

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