「うん。わたしの飼ってるチョコボがまだひなの時、よくお世話になったよ」
BOYS BE AMBITIOUS!
晴れた日の午後、魔導院のテラス。
恐らく一目惚れから片想いを経て、漸くフィアに自分の気持ちを伝えることが出来た0組候補生マキナ。
確信犯めいた行動や言動が目立つがそれでも人望は厚い0組副指揮隊長フィア。
「お世話日記にね、イザナ・クナギリくんの名前を見付けて。マキナくんと同じ名前だったから、兄弟なのかなって」
クリスタルの加護故に記憶には無いが、マキナには確かに少し歳の離れた兄がいたのだ。前の魔導院開放戦の時に戦死したと報告を聞いた。
「マキナくんのお兄さんだから、きっと良いお兄さんだったんだろうね」
穏やかな微笑みを浮かべてフィアはそっと笑った。テラスの柵に背を預けていたマキナはそんな彼女の微笑みにドキリと鼓動を跳ねさせた。
「フィアさん……」
テラスの長椅子に腰掛けるフィアに暖かな冬の陽射しが降り注ぐ。少し寒いけれど、その陽射しのお陰で体の芯まで凍えるわけではない。
亡くなった自分の兄のことをしっかりと考えてくれる人など、幼馴染みであるレム以外にいただろうか。
「記憶が無くなる、って辛いよね」
死者の存在はクリスタルの加護により残された者の記憶から消えてしまう。それが本当に残された者の為なのか、はたまた死者の願うことなのかはわからない。
「知らない内にそこだけぽっかり忘れてるから、辛いかどうかなんてことも、……実際はわからないんだ」
それはフィア自身も何度も経験してきていた為理解出来た。何かが欠けてしまったような、何かが足りないのだけれどその何かが何なのか思い出せない。
俯くマキナをそっと見つめてフィアは優しく微笑んだ。
「でもそうやって、思い出せないことを悔やめるってことは、やっぱりマキナくんは優しい子なんだよ」
綺麗に微笑むフィアは少し儚げで、テラスに注ぐ陽射しも相まってより一層そう見えた。座りながら下から自分を見つめるフィアの視線。
「……フィアさん」
話していた話題が話題だからか、マキナの胸にフィアがそのまま消えてしまうんではないかという不安が過る。不意に彼女の名前を口にしたかと思うと。
「っマキナく」
すぐ近くまで来たマキナを見上げようとしたフィアの唇は上からその本人によって塞がれた。
ぴったりと合わさるように隙間なく重ねられたマキナの唇は少し冷たい。
黙ってフィアは瞳を閉じる。
するとマキナの手がそっと肩に当てられて、反対の手はフィアの背に回る。唇は冷たかったけれど彼の手は暖かだった。
「誰か来たらバレちゃうよ?」
「そうしたら見せ付けてやるさ」
少し離れた口唇がまた塞がれて、離れ際にぺろりと唇を舐められた。ほわほわとした気持ちになって、立ったままのマキナを無意識に上目で見つめていると。
「フィアさん、その顔反則だ」
少し頬を赤らめたマキナがそう言って視線をちらりと逸らす。フィアは不思議そうに首を傾げる。
「それ、だめ」
「わっえ、マキナくん?」
後頭部を引き寄せられてばふっとマキナの胸に抱き締められる。額が胸にくっついて、前が見えない状態。
「そんな表情で見つめられたらオレ、いろいろ我慢出来ないだろ」
ぽんぽんと頭を撫でられる。
今も結構、我慢出来てないような気がするけれどフィアはそう出掛かった言葉を飲み込んだ。
彼女は魔導院の武官で彼は魔導院の候補生。二人の仲はあまり堂々と公に出来る関係ではない。