やっぱり相変わらず彼女の周りには0組の他のメンバーが常にキープしていて。
とてもじゃないけどオレなんかじゃ近付けない。居なくなったと思えば今度はオレの邪魔をするのは我らが指揮隊長で。
「フィア、少し時間あるか?」
「クラサメさん。大丈夫ですよ」
呆気なくオレの前からフィアさんを拐っていく。これはもう、皆が皆グルなんじゃないだろうか。
そんなストレスの溜まる毎日を過ごしていたオレはある日、授業終わりに課題の入ったファイルを教室に忘れたことに気付いた。
「ついてないな……最近のオレ」
自室まであと数メートルの距離になって気付いた為、めんどくさいながらも教室までの道のりを戻った。
どうせまた、放課後の教室では0組の連中の輪の中で楽しそうに笑うフィアさんの姿が……
「あ、マキナくん」
教室の扉を開くと、目の前に久しぶりの穏やかな顔があった。
「っ……どうも」
速くなる鼓動から目を背ける様に、オレはつい素っ気ない態度を取ってしまう。
ちらりと教室を見渡すと彼女以外誰の姿もなかった。
「もー、マキナくん聞いてよ。今日ナインとケイト、掃除当番なのに。すっかり忘れてどっか行っちゃったんだよ?」
そんなオレの態度を気にもせず、フィアさんは教室の隅のロッカーから箒を出して溜め息を吐いた。
「サボらないって約束したのに」
唇をやや尖らせて、仕方がないと言った様子で床を掃き出すフィアさん。
……これはもしかしたら、チャンスかもしれない。
「オレ、代わりに手伝いましょうか?」
少し声が大きくなった。
フィアさんはオレの言葉に反応してこっちを見る。その時の彼女の表情と言ったら、思わず抱き締めたくなるような花の綻ぶような笑顔で。
「ありがとう。マキナくんってやっぱり、優しいんだね」
「っ……」
自然と、体が動いていた。
驚くフィアさんを尻目に、ぎゅっと。
「ま、マキナ……くん?」
「オレ……オレ、フィアさんのこと」
0組の連中やクラサメ隊長がフィアさんを独占してる時感じた、もやもやとした重苦しい感情。
「フィアさんのこと、好きです。
多分、初めて会った時から、ずっと」
あれは、自分が彼女を独占出来ないことに対する、嫉妬だ。
「もー。話し掛けてくれるの待ってたけど、告白してくるなんて想定外だよ?」
はにかみながら、彼女が笑った。
少し、悪戯っぽく。
もしかしたら確信犯なんじゃないかとも思ったけれど。
「フィアさんがオレのクラスの副隊長になるなんてことも、想定外ですよ」
それならそれで、彼女の手のひらで転がされるのも悪くないかもな、なんて。
「それは、わたし知ってたかも」
「やっぱりだ」
思ってしまった自分がいた。
今度こそフィアさんは笑う。勿論最高に悪戯っぽく。
「候補生が副隊長に告白?クラサメさん聞いたら怒っちゃうかもしれないよ?」
「挑むところだ。オレは」
偶然の出会いだったけれど、多分偶然じゃない。オレと彼女は。
「フィアを独占したい」
出逢うべくして、出逢ったんだ。
だからそれを、必然と、呼ぶ。
誰もいない教室で、オレより少し背の低い彼女の肩を引き寄せて。次の言葉が紡がれる前に、そのふっくらとした唇を塞いだ。
*fin*
2012/01/10 了