虹の雪(4/4)

ぎゅっと腰を引き寄せられて、大きな胸にすっぽりと収まって。目測を見謝って作った石の階段みたいな身長差から、彼とするキスは首が少し痛いのだけれど。
それでもちょっとした気遣いからカトルの方が背を軽く屈めてくれる。そんな些細な彼の優しさに、また1つ心が溶かされる。
繋いだ手から伝わる体温と、触れ合った唇の温度差に苦笑しつつ。温かいとは言えないお互いの温度が混ざり合って熱になるのが好きだった。

「ん、あったかい」
「こんなに冷えているのによくそんなことが言えたな」

嘘じゃないのに、冷たい頬を冷たいカトルの手で撫でられて呆れられる。自分だって冷えているくせに。
くすりと笑いが洩れると額を軽くつつかれて頭をぽんぽんされる。

頭を撫でられて嫌じゃないのも、並んだ時に身長差が歪になるのも、触れ合った冷たい唇がすぐに熱に変わるのも、たまに素直になれるのも、キスする時に首が痛くなるもの、全部、ぜんぶ……





*





目が覚めた。
瞬間ひやりと冷たい空気が肌を刺して、無意識に自分の体を抱き締めた。
着ていた寝間着の布が妙に冷たくて、少しだけ布団が捲れ上がってるのを理解した時には頭が冷静になっていた。

誰もいない。
当たり前か。自分の部屋だ。
湿ったガラス窓に目線を向ければ外はまだ少しだけ薄暗く、次いで時計を確認すると朝早かった。

不思議な気分だった。
けれど頭の中は雪がしんしんと降り積もるみたいに冷静で、それでいて切ない。
真っ白な雪原にぽっかりと付けた足跡のような喪失感が、拭えなくて。

「散歩でもしようかな」

普段なら2度寝でもしてもう1度温まろうと考えるのだが、その日は何と無く外に出てみたくなった。変な夢を見たからだろうか。




「寒い……」

当たり前にある真っ白な光景にいちいち驚く事はないのだけれど、なんだかその日はその白い空間がとても切なかった。

サク、サク、と足跡を刻んでいく。
少し前よりは層が薄くなった雪。
僅かに覗いた朝の陽射しが白い地面に反射して目が眩んだ。夜が明けたのだけれど、どうしてこんなに冷たいのだろう。

不思議な気分だった。
今の今まで誰かと一緒に居たような。
誰かと笑い合っていたような。
誰かと手を繋いでいたような。

「まさか、ね」

ふと、空を仰いだ。
はらり、はらりと雪が舞い散る。

行き場を失った言の葉みたいにふわり、ふわりとさ迷った雪の結晶が、そっとフィアの唇に触れた。

「冷たい……」

直ぐに溶けて消えたそれ。
ゆっくりと、掌で別の雪を受け止めた。
ふわりと落ちた結晶が、じんわりと掌の熱に溶けていく。その手を握って、開いて、はっとして空を見上げた。



「今日は、晴れるかな」

振り返って足下にある跡を目で追った。
ぽっかりと空いた自分の足跡に、自然、笑みが洩れた。


*fin*
2012/04/20 了
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