(また嫉妬かよ、オレ)
いつだったか、彼女と2回目に出会った時もあまりに仲の良すぎる0組の連中に嫉妬していて。もやもやと心の中は澱んでいた。
(しかも今度は隊長に)
リフレッシュルームで見たクラサメとフィアの並んだ後ろ姿。普段は冷たい印象しか与えないクラサメの纏う雰囲気は明らかに違っていて、フィアもまた楽しそうだった。
(頭撫でるとか、無いだろ……)
そんなキャラじゃないだろ、あんた。
そう言ってやりたかったけれど悔しい事に心の何処かでそんな2人を“お似合い”だなんて認めてしまった自分もいて。
(カッコ悪い)
運良くテラスには人がいない。
少し屈むようにして両腕をテラスの柵について項垂れる。真っ青な空なんて、なんだか飲み込まれてしまいそうで仰ぐ余裕なんか無かった。
レムにもまた悪いことをしてしまった。
「謝らないとな、レムに」
「そうだよ。今頃クラサメさんにいろいろ問い質されてるよ?レム」
本当にそうだ。
ただでさえマキナとフィアは武官と候補生。あまり深く追求されるのは好ましくない関係だと言うのに。
レムならきっと上手く誤魔化してやり過ごしてくれるのだろうけど、相手はあのクラサメだ。全部見透かしたようなあの冷めた視線は少し苦手で。まあでも、フィアもいることだし、彼女も彼女で結構口が上手かったりする。そう、フィアもいるなら……
「っ……フィアさんっ!?」
ぎょっとしてマキナは顔を上げた。
返事が返って来るはずの無い自分の独り言に、見事に返って来たそれは今しがた離れてきた自分の恋人本人で。
「あはは、マキナくんびっくりしてる」
くすり、と笑うフィアの優しい表情に一瞬脳がくらりと揺れる。何でここにいるんだ、何で場所がわかったんだ。言いたいことはたくさんあるのに、胸の中でぐるぐると渦巻いてどれから言葉にすればいいのかよくわからない。
「っ何で」
だからそっと、自分より華奢な肩を引き寄せた。ふわりと香るフィアの髪の香りが妙に懐かしく感じてしまう。
「フィアさん、オレ……」
「マキナくんせっかく会いに来てくれたのに、急に走ってっちゃうんだもん」
マキナの言葉を遮ってフィアが言う。
ぎゅっとフィアの肩を抱き締める力を強めて、全身で包み込む。肺いっぱいに、澄んだ空気ではなく彼女の香りを吸い込んでみて。ああ、自分はとても子供なんだなと実感させられる。
勝手にクラサメに嫉妬して。
勝手に0組の皆に嫉妬して。
けれどフィアはいつでも自分のことを考えてくれていて、こうしてしっかり自分の腕に戻って来てくれる。
そんな彼女を信じることが、自分が子供から大人に少しでも近付ける1歩なんじゃないだろうか。
「クラサメさんにね、言っておいたよ」
楽しそうにマキナを見上げるフィアの言葉に不思議そうに首を傾げるマキナ。
「恋人のこと追い掛けてきます、って」
そう、子供な自分を彼女がまだ受け入れ包み込んでくれてる今のうちに、とっとと大人になって、彼女を守れるように強くならなくては。
「へえ、って……隊長に?」
「マキナ」
ビクッとマキナの肩が面白いくらいに跳ね上がった。彼の腕の中で悪戯っぽく笑っているフィアの視線の先が恐ろしくて見れない。
「ま、マキナごめん……止めようとしたんだけど、た、隊長、強くて」
レムが疲れきった声で力なく告げる。
マキナの背後から恐ろしく冷え込んだ空気が漂ってきて、抱き締めたフィアの体温とあまりに正反対のそれに髪の先が凍り付きそうだ。
「自分の組の副隊長に手を出すとは、それ相応の覚悟は出来てるんだろうな?」
ドスの効いた隊長の声。
楽しそうに笑うフィアの顔。
哀れんだ目で見つめるレム。
3つの視線を向けられて、内心テンパってるオレ。
「勿論、オレはフィアを愛してる」
胸を張って振り向いてそう言うと。
隊長の眉間がキツくなって、
レムが嬉しそうに微笑んで、
フィアさんの唇がオレのそれと重なって
「マキナくん、カッコいい」
少年よ、大志を抱け!
*fin*
2012/04/17 了