予定通り領土侵攻作戦が開始される筈だった日。何故か任務開始直前に1組へ待機命令が出されたのだ。
「予想より敵の数が少なかったみたい。朱雀軍だけでなんとかなるって」
戦う気満々だったらしいサユはリフレッシュルームの机に突っ伏して文句を言っていた。フィアはオムライスをスプーンで口に運びながらそんな彼女を宥める。
「1組として初任務だったのに」
「ああそっか、サユにとっては大事な初陣だったんだね」
サラダをフォークで突っついてサユは溜め息を深く吐き出した。任務が決行されなかった為、勿論クラサメとコンビを組んでいたフィアも魔導院待機だ。
「初陣でガツーンと活躍して私の力を知らしめてやろうとしたのに」
「あはは、残念だね」
「全然感情込もってなーい!」とレタスをフォークで突き刺してサユが嘆いた。
と、そこでリフレッシュルーム全体がザワザワと騒がしくなる。と言っても昼のこの時間、元々騒がしいのだが。
「ん?なんか女子がさわがしい……ってああ、王子の登場か」
「王子?」
対して興味の無さそうに言うサユに倣ってフィアもサユと同じ方向に視線を向ける。そして納得して「ああ成る程ね」と一言呟いた。
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「クラサメくんかあ。人気だよね」
1組にいるとそうそう感じないのだが、彼がエントランスホールやリフレッシュルームに来るとたちまち周りの女子が黄色い声を上げる。
「顔良し、頭良し、戦闘技術良し、朱雀四天王泣く子も黙る氷剣の死神ってね」
「あはは、なにそれ」
何かのナレーションのように語るサユにフィアは思わず吹き出した。
「何って、クラサメ君の評判と通称よ。みーんな彼にお近づきになりたいと日々頑張って任務に励んでるわけですよ」
「そこで任務なの?」
クラサメと話したいなら普通に話しかければいいではないか。フィアはスプーンを口につけたまま首を傾げた。
「任務で良い成績を上げれば1組に昇級出来る可能性があるでしょ?」
「ああ」
1組に上がれば嫌でもクラサメと同じクラスだ。共に任務を行うことだってあるかもしれない。
「で、戦場で危ない場面に陥ったクラサメ君を助けて、恋が生まれるわけ!」
力説するサユにフィアはオムライスをまた一口食べて答えた。
「クラサメくんの実力なら危ない場面に陥ったりしないと思うけどな」
「そーこーは、妄想と気力と魔力で割愛くださいな」
ちらりと視線をクラサメ達に向ける。傍らにはカヅサがいて、何か話してるようだ。たまたま見えたトレーには自分と同じオムライスが乗っていて。
「オムライス好きなんだ……」
フィアは自分の食べ掛けのオムライスを見てポツリと呟いた。
そんな彼女を見てサユはちょいちょいと内緒話をするような格好で手招きする。フィアは耳をサユの方に貸した。
「そういえばさ、裏庭のサクラの木の話知ってる?」
「サクラの木?」
聞いたこともなければ裏庭がどこにあるのかすらもフィアはわからなかった。元々この魔導院は広いが、候補生が魔方陣で行ける範囲も決まっていたりする。
「エントランスホールから行ける空き教室あるでしょ?あそこから裏庭に行けるみたいなんだけど」
確かにクリスタリウムとは逆方向に空き教室があるフロアに繋がる扉はあった。けれどその教室から裏庭に行けるなんて知らなかった。
「で、その裏庭のサクラの木が?」
話からしてその裏庭にサクラの木があるのだろう。その木が一体なんだと言うのだ。スプーンを持つ手を止めてフィアはサユを見た。