血生臭い旧訓練場。
埃っぽかった筈のそこは今では生暖かい湿り気を帯びていて、吐き気を催した。
「……始末、あと、始末」
辺りに転がる惨たらしい同胞の遺体に持ってきたタンクから液体をばら蒔く。
「……俺、なんで」
何と無く、転がる残骸の1つのメットを外してその顔を確認してみるのだが。
知らない兵士の顔だった。
***
最近、カトル様が連れてきた捕虜と仲良くなった。
カトル様がいない間、代わりに食事を運ぶよう頼まれていた俺。初めて彼女を見た時に少し驚いた。
朱雀の戦力と言えばだいたい皆が皆、10代後半から20代前半の若い候補生が中心。そう教えられていたしたまに前線に出た時に出くわす朱雀の連中も勿論若かったのは覚えている。
カトル様の執務室にいた捕虜も俺とそう歳も変わらない女だった。
「あんたがカトル様のお気に入りか?」
食事のトレーを持って執務室に入ると、ガラス張りの窓の外を見つめながら表情を変えない女の姿があって。なんだか妙に、可哀想に思えた。
「?」
俺の声に反応して、此方を振り向いた女はやっぱり若くて、俺と歳もそう変わらないと思う。それなのにカトル様のとは言え、狭い執務室にずっと監禁されたような状態。
2、3言葉を交わしながら女の様子を伺うとやっぱりどこか寂しそうで。まだまだ若いのに主戦力として戦場に駆り出されて、この仕打ちだ。俺も軍の人間だから大概人の事は言えないけれど。
「俺はリューゲ。お節介かもしれないけどさ、もしなんだったらちょっと外の空気吸ってみないか?」
そう思ってたらなんだか自然と口にしていて。カトル様は視察で居ない。
俺と同じ格好してメット被ってりゃバレ無いだろうし、気が付けば彼女を外へ連れ出していた。
*
「おい、おまえ」
日課になりつつあるフィアへの食事運びの途中。廊下で不意に呼び止められた。人気が多い廊下ではないので多分、俺のこと。
「はっ!何かご命令でしょうか?」
一応一般兵である俺の先輩で、あまり世話になった覚えは無いけれど良い噂は聞かない人物なので波風は立てたくない。
どちらかと言うとカトル様の方が俺はお世話になっているし、だからこうして食事係を頼んで下さったんだと思うし。
「最近お前、こっちで見掛けないな」
こっち、と言うのは恐らく一般兵が担当する見張りや雑用のこと。フィアへの食事係を任されてからカトル様のご厚意でそっちは免除してもらっていたのだ。
「カトル様に私用を頼まれていまして、そっちの仕事は免除して頂いてます」
「私用?ああ、もしかして例の捕虜の女の世話か?」
にやり、と笑ったのがなんとなく気配でわかった。おかしいな、ヘルメット越しで表情は見えないはずなのに。
トレーに乗せた食事が冷めてしまう為、そのあと適当に断って先輩から逃げた。
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