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0組を筆頭に仕掛けた奇襲作戦は皇国へ更なるダメージを与えた。
一方で先陣を切って戦った0組の候補生たちはあまり皇国軍への手応えは感じず、作戦は成功したものの何か腑に落ちないものを抱えていた。勿論それは0組の指揮官であるクラサメも同じで。

少し前に生じた疑問。
“フィアが皇国の密偵として動いているのではないか”
それが現実味を帯びてきている。
奇襲だったにしても相手は皇国軍。
それなりに手こずってもおかしくない。
敢えて敗北を望んだような、そう、候補生時代のあの日フィアとの任務中に感じた違和感と少し似ていて。

「この調子で次は皇国へ直接的に攻撃を行う。目指すは首都、イングラム」

けれど確かな証拠が無いのにフィアを密偵だと訴えるわけにも行かず。

「皇国は今戦意も数も極端に落ち込んでいる。一気に攻め込み、そしてミリテスを降伏させるチャンスだ」

そう広くはない軍令部に軍令部長の自信に満ちた声が響く。
クラサメとエミナ、カヅサはそれを比較的近くで、サユは向かって左の壁側で、そしてフィアは一番離れた出入口の辺りで、各々様々な思いを胸に聞いていた。

「いいか、皆気を引き締めて……」



蝉が、真実を炙り出す。



軍令部に響いた威勢の良い武官たちの掛け声が、フィアにはどこか別の空間のもののように思えた。



***





「一先ず、ここは皇国の領地だ。今は連中が出回っているし、下手に動いて見付かるよりは暫くここで様子を見た方がいいと思うが」
「さすがクラサメ君、便りになるねえ」

3人の重たい溜め息が静かな夜の空気に流れた。
どういうわけか任務で肩を並べることになったクラサメ、フィア、エミナ、カヅサの4人。計画通り任務を遂行し皇国兵に見付からないよう魔導院に帰投すれば全て完璧に事が運ぶはずだったのだが。

「どーして貴方と一緒にいると碌なことが起きないのかしらね、カヅサ?」

腕を組んだエミナがにっこりと笑みを浮かべてカヅサを見つめる。けれどその笑みは普段彼女が浮かべる人柄の良いそれではなくて。

「いやあ〜、ちょっと興味深い対象物を見付けちゃってさ。これは是非院に持ち帰って研究を」
「バカヅサ」

もう一度盛大な溜め息を吐いてフィアが言った。今ほどその呼び名が彼にピッタリだと思う瞬間は無いだろう。

そんなカヅサの好奇心から皇国の見張り兵に見付かってしまった4人。今回の任務中は無駄な戦闘を一切禁止されていたため大事になる前にと急いで踵を返したのだが時既に遅かったのだ。

「酷いな〜フィア君さ、この間からと言い、地味に僕のこと嫌いだろう?」
「そんなことないよ」

面倒くさそうに返すフィア。
更に最悪なことにカヅサの付けていた通信器の故障か何かか、院への連絡が取れない状況になってしまったのだ。
何かを考えるクラサメと、フィアとカヅサのやり取りを見ているエミナ。

「じゃあクラサメ君にも何かあだ名付けてあげてよ、僕だけ悪いだろう?」
「何でそうなるんだ」

クラサメは思考を止めてカヅサの背を叩いた。バシンッと控えめながらも痛そうな鈍い音がする。

「いた、いたた……クラサメ君まで酷いなエミナくーん!」
「自業自得って言うのよ、それ」

この場に今日何度目かもわからない溜め息がまた一つ落ちた。

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