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「ねえクラサメ君。
 フィア君ってどんな子だい?」

講義開始より少し早い時間。
着なれた制服に腕を遠し、朝食も済ませていつものように少し早めに教室に向かう。そしていつものように、エントランスホールから各クラスの廊下に繋がっている魔方陣に足を向けた途中で、この男に遭遇する。

「朝から何なんだ、カヅサ」

振り返れば朝の爽やかな陽射しに燦々と照らされるカヅサの姿。勿論、相反してこの男は決して爽やかではない。
その日はすっきりと空が晴れ、正面ゲートまでのスロープ横に咲く普段はあまり目立たない桜も満開だった。

「やだなあ〜朝から僕とクラサメ君の友情を育もうと積極的に交流を求めてるのに、そんな怖い顔で睨まないでよ!」

両手を顔の高さまで挙げてひらひらと振って見せるカヅサはなんだか間抜けに見えた。まあ、これもなんて事のないいつもの日常になってしまっているけれど。
溜め息をついて睨むのを止めてそのまま魔方陣に消える。慌てたようにカヅサが後を追ってくる。

「で、クラサメ君クラサメ君!フィア君のどこがいいの?好きなのかい?ね〜」
「お前は犬か何かか」

まるで背後から大きな犬にスキンシップを図られているような気分。無視して歩いていても鬱陶しい。

「犬?僕犬みたいかい?犬のように無邪気で可愛い?もークラサメ君、駄目だよ君にはフィア君って言う……あ、でも僕はいつでも大歓迎だよ!」
「なら命令だ、俺の前から消えてくれ」

どうもこの男には普通の人間に通じる言葉が通じてくれないらしい。そしてそれもいつもの事。この程度ではこいつはへこたれない。その強い精神力は褒めるべきなのか否か。……いや、褒めると調子に乗るのが目に見えている。

「クラサメ君の頼みなら、僕消えちゃおうかな〜!」
「そうしてくれると助かる」

何がそんなに楽しいのだろうか、爛々と効果音が付きそうな程上機嫌になるカヅサの性格はいまだに理解出来ない反面、こういう食えない奴なんだと既に諦めつつもある。何だかんだ、この近すぎず遠すぎずな距離は悪くはない気がして。

「で、フィア君の何がそんなに魅力的なのかな?やっぱり体?人体?僕もフィア君を1度でいいからじっくり観察したいな〜!」
「………」

前言撤回するべきか。

「だってさあ、エミナ君の豊満な胸に何も感じないクラサメ君が好意を持ってる子だよ?気にならない普通?」

結局、初めの質問に答えるまでこいつは執拗に質問を続けてくる。これも実は毎朝の日課になりつつあってしまって非常に不本意だ。

「それはお前も同じだろ」
「2人とも、何か言った?」

カヅサに言葉を返したつもりだったのだが、やってしまった。最悪のタイミングで話題に上がった人物の声が耳に入る。

「悪かったわね、何も感じない体で」

不本意にカヅサと同じタイミングで後ろを振り返ると、にっこりと人当たりの良い笑顔を浮かべるエミナがいた。けれど、自分が言うのもなんだが目が笑っていない。

「わ、え、エミナ君違うんだよ!エミナ君の体はまた別で、そりゃあとっても魅力的でさ……!」
「もういいわよっ、私にはフィアがいるんだから!」

べー、と表情豊かにポニーテールを揺らしながら舌を出してくるエミナ。
慌てて弁解しようとするカヅサに自然と笑いが込み上げてきそうだったが、今の状況ではエミナを更に怒らせるだけなのでここは堪えるところだろう。

「そういえばエミナ、最近フィアと一緒じゃないんだな?」

話題を逸らそうと振った話に彼女は思いの外乗ってきて。廊下の窓際に寄って話しているとちらほらと何人かが横を通り過ぎていく。知り合いなのか、エミナは頻りに朝の挨拶を返していた。

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