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『レプリカ』
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「フィア!そっちは頼んだ」
「任せて、クラサメくん!」
背中合わせに剣を構え、2人は同じタイミングで地面を蹴った。飛び掛かって来たモンスターに剣を立てるクラサメ。フィアも可変式のエッジで真っ二つ、とはいかないが上手く急所を狙いモンスターを倒していく。
「よし、これで……!」
パチン、とフィアが指を鳴らすと最後の1匹目掛け火柱が上がる。焦げ臭い空気が辺りに立ち込め、動かなくなる個体を確認すると2人は武器をしまった。
ふう、と息を吐くフィア。
スカートの裾をササッと払いクラサメの方へ振り向こうとした時。
「わっ!」
「っフィア!」
火柱が上がった時の爆風で転がってきたのか、小石を踏んでしまいフィアの足がガクリと縺れる。前のめりになったフィアは慌てて手を着こうとしたのだが。
「危ない、な……」
それより先に伸びてきたクラサメの腕に抱き抱えられた。ぽふっ、と彼の胸に軽く衝突。ぽんぽんと頭を撫でられフィアは思わず苦笑した。
「そんなヒールのあるブーツ履いてるからじゃないのか」
そんな、と言いながらサイハイブーツを指差すクラサメの胸をぺしりと叩く。
「それは関係無いもん!」
「高くて歩きにくくないか?」
むっ、とフィアの眉間が寄る。
「そんなことありませんー!」
ばっとクラサメの腕から抜け出すとフィアはべー、と舌を出して見せた。
これには今度はクラサメの方が苦笑い。
「心配して言ってるんだ。足首でも捻ったら危ないだろ?」
クラサメの言葉を背中で聞きながらフィアは先に進もうと足を踏み出す。
むう、と口は閉ざしたまま。
前しか見ていない彼女は足下に別の石が転がっているなんて気付かずに。
「っわ!」
「フィアっ!」
ぐき、と足首が曲がる。
操り人形の糸が突然切られたみたいに倒れ込むフィア。クラサメは慌ててまた彼女の側に駆け寄るが。
「いったあ……」
「だから言っただろ」
小さくため息を吐いてクラサメはフィアの足を軽く前に伸ばさせた。「脱がすぞ?」と一言断りを入れてブーツとソックスをゆっくり引き抜く。
「赤くなってる」
「うう……」
フィアの足首は僅かだったが赤く染まっていて、これは時間が経てば比例して腫れてくるだろう。
少し考えた素振りを見せ、クラサメは徐にフィアに背中を向けた。そんな彼の行動を疑問に思いつつも顔を上げると。
そう。クラサメは顔だけこちらを向いて「背中に乗れ」とばかりにフィアを無言で見つめている。これは。
「……おぶってくれるの?」
「下手に歩いたら酷くなるだろ」
言いつつも目は笑っている。
その眼差しが優しくて、どうにも反抗する気持ちが削がれてしまう。フィアは躊躇いながらものそのそとクラサメの背に近付いて体重を少しだけ預けてみる。
「平気?」
「何が?」
そうしているとクラサメが勝手に立ち上がろうとして、慌てて腕を伸ばして彼の首の前に持っていく。必然的に体重がすべて彼にかかってしまう。
フィットする位置まで持ち上げられて、フィアの体が一瞬浮く。
「重くない?」
クラサメに背負われるのなんて初めての事だ。恐る恐る問い掛けてみると鼻で笑われた。
「剣より軽い」
「っ、嘘……!」
くすくすと笑うクラサメは脱がしたままのフィアのブーツを掴むと、魔導院へ向け歩みを進めた。
***