ぎゅっと布を握り締めた手はほどけることなく握り返され、すぐに視界は真っ暗になった。
強い力がフィアを抱き締める。
氷った心が融かされるような。
しんしんと、白い断片が降り注ぐ。
彼らに降り積もる。
カトルはフィアの体を覆い抱き締めたまま、暫くその場を動かなかった。
「っ、カトルさん……」
壊れ物を扱うようにソファーに落とされて、いつだったかも同じようにされたことを思い出す。
少しだけ懐かしい匂いと空間。
けれどそんなこと意識してる余裕など2人には無くて。
「ん……」
冷えた互いの唇が触れ合った。
温めるようにフィアの唇を啄むカトル。優しかったそれはだんだんと深く彼女の唇を貪るように激しくなっていき、伴うように熱を持った。
レザー越しにしか触れたことの無いフィアの頬に、ゆっくりと自らの手を這わせる。撫でて、触れて、指の背で柔らかい頬をまた撫でる。
「カトルさん」
今日何度口にしたのだろう。
涙で濡れた瞳で彼を見上げる。
「ああ」
しっかりと、返事が聞こえて。
フィアは安堵に、目を閉じた。
潜入の為に着ていた皇国兵の制服をするりと脱がされる。そうしてぎゅっと、カトルの広い胸に抱かれる。その暖かさにまた涙が出そうになる。
薄く目を開くとすぐ近くにカトルの端正な顔があり、穏やかなアイスブルーがフィアを写し出していた。
冷たくて、氷のような色。
だけど、
「カトルさん……」
こんなにも、あたたかい。
氷った心がゆっくりと溶かされていくような感覚に陥る。薄い唇が啄むように何度も触れて、軽いリップ音が聞こえ、カトルが視界から消える。
「んっ」
首筋に顔を埋められて、目の前にあった頭。綺麗な白金の髪に指を絡ませた。
ちくり、と薄い皮膚に吸い付かれて甘い痛みが駆ける。同時にカトルの大きな手が大腿(ふともも)にゆっくりと這わせられる。肌をなぞるように、確かめるように。
「っあ」
まるで微睡んでいたような思考が少しだけ覚め、僅かな冷静さが呼び戻される。
思わず躊躇いから声を出すと。
「安心しろ、何もしない」
カトルの指先が大腿からススッと下に下りていく。膝、ふくらはぎ、足の爪先。冷たい雪を掻き分けて歩いてきたフィアの足の先はとても冷たくて。
「お前は、いつも冷たいな」
そう聞こえたかと思うと、足の甲にそっと唇を当てられる。くすぐったいような懐かしいような感覚に鼻から空気が抜けた。
「カトルさ、ん……?」
そのままふくらはぎや脛にちゅ、ちゅ、とゆっくり口付けられ、冷たかった足の先が暖まっていくように錯覚する。きゅっと白いシーツを掴んだ。
窓の外ではしんしんと白の断片が降り注ぎ、積もっていく。
「カトルさん」
顔を上げたカトル。
既に温まり、熱を持ったお互いの唇が引き寄せられるように重なった。
積もり積もった断片はやがて、固まることはなくさらさらと崩れていく。
「あなたの傍に、いさせてください」
砕けた心の代わりには、
レプリカを纏おうか。
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