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『クラサメくん、また、明日』



*




「ねえちょっと聞いてよフィアー!」

陽射しが差し込む1組の教室の窓際。
朝早くからここに来て太陽の光線を浴びるのがとても気持ち良かった。魔導院ペリシティリウム朱雀、候補生の中でも一番の成績優秀者が集められている1組。

「朝から元気だねサユは」

ついこの間、新たに1組の候補生に上がってきたサユとは何かと気が合い仲が良かった。ちらりと教室の中程の席を見てみると、そこにはまだ誰もいなかった。

「だって今日こそリフレの新しい朝食メニュー頼もうとしたんだよ!朝何時に起きたと思ってんの!」

「はいはい、ご苦労ご苦労」と返すとフィアはまた自分の腕に顔を乗せ、陽射しを浴びながら目を閉じた。

「フィアは朝ごはん何食べたの?」
「おにぎり〜」
「ええ!?1つだけ?」

「うん」と素っ気なく返してもサユは相変わらず1人で騒いでいる。
そんな時間がいくらか続いて、教室の扉を行き来する生徒の数がだんだんと増えてくる。そろそろ授業の時間か。

「フィア!会いたかったよ〜!」
「ぐえ」

どん、と背後からのし掛かられ、蛙が潰れたような声が洩れた。くすくすと笑うサユの声の他にも笑い声が聞こえる。

「おはようフィア君。ところでフィア君は腹に蛙って飼ってたっけ?」

眼鏡のブリッジを押し上げながら悪びれもなく言う男を睨んでフィアは言った。

「うるさいなバカヅサ!」
「あはは、バカヅサってぴったりね」

フィアにのし掛かっていたエミナが笑いながらおかしそうにカヅサを指差した。

「二人共酷いな。クラサメくーん、エミナ君とフィア君が苛めるよー助けてー」
「自業自得だろ」

隣にいた男、クラサメに泣き付く真似をしながら縋るカヅサだったが溜め息をつかれながら見事にスッパリと切り落とされた。ていっと片手でカヅサを追い払ってクラサメはフィアを見た。

「おはよう、フィア」
「おはよ、クラサメくん」

フィアもそんなクラサメに微笑んで挨拶を返す。
窓から入る光が彼を爽やかに照らしていて、なんだかとても輝いて見えた。

「もー、朝から二人見せ付けてくれちゃってえー。フィアはわたしのなんだからねクラサメ君!」

と、そこでエミナがびしりとクラサメに人差し指を向けて宣戦布告。

「揃ってるなー?始めるぞ」

したところで授業開始の時間になった。
「席につけー」と言う隊長にそれぞれ友人と話し込んでいた候補生達は各自の席に戻って行く。エミナやクラサメ達も自分の席に帰っていった。

「クラサメ君フィアに優しいよねー」

フィアの前の席であるサユがこっそりと後ろを向いて言ってくる。フィアは曖昧に笑ってそんなサユの言葉を否定した。

「朝の挨拶くらい普通じゃない?」
「でも“フィア”って名指しだったし」

確かに名指しだったが、クラサメやエミナ達とはいつもああやってふざけ合いながら挨拶することが多かった。フィアにとっては何一ついつもと変わらない日常なのだ。

退屈な隊長の言葉を耳だけで聞きながらぼんやりと窓の外に目を向ける。魔導院の噴水前が少しばかり見える。門からある道を取り囲むように桃色のそれは満開だった。

(綺麗だなあ、桜)

一筋風が吹いて、桜の花びらをゆらりと揺らした。舞い上がって雪のように散るそれはとても儚くて。

(桜、か……)

とても綺麗だった。




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