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『eleven』



*




ゆっくりと、確実に。
咲いた桜の花びらが、ひらり、ひらり、と舞い散るように。
彼らの時の歩みも確実に。
ひらり、ひらり、と散っていく。

蝉の咽び声と共に狂い出した、時の歯車
桜の咲かぬ、季節が今年もやってくる




ひらり、



「あ、いたいたクラサメ君!」

突き抜けるような青い空。
薄桃色に舞い散る桜の花びら。
そんな中で思い切り此方に手を振ってきているのは昔馴染みの友人、カヅサ。隣には少し疲れた表情のポニーテールのエミナ。2人とも制服の胸元には綺麗に彩られた花が付けられている。
卒業式――
世間一般ではそう言うだろうか。
魔法を学び、武術を学び、戦場に赴き、朱雀の為にとクリスタルの加護の下、仲間と共に戦ってきた彼ら。
そんな彼らにも平等に時は流れている。

「カヅサ、エミナ」
「もー、卒業式ってこんなに疲れるものだったっけ?あっちでこっちで候補生に追い回されて……」

カヅサと違ってややテンションの低いエミナは言葉の通り少々疲れ気味だった。
よく見てみると彼女の制服の袖口のボタンが全て無くなっている。

「それはエミナ君だからだと思うんだけど……あ、クラサメ君ももう全滅?」
「全滅ってなんだ、全滅って」

意味のわからない言い回しに眉間を寄せるクラサメ。言ったカヅサはクラサメの袖口を掴みながらあっけらかんと笑っている。

「いい表現だろ?あれ、でもボタン全部残ってるね。あげなかったの?」
「断った」

パチパチと目を瞬くカヅサ。エミナとちらりと視線を合わせて、少ししてからおかしそうにまた笑い出す彼。

「あらら、みんな全敗か」
「クラサメ君らしいね」

ボタンを下さい、と申し出る女生徒の決死の勇気を意図も簡単に一刀両断するクラサメの図が目に浮かぶ。
モテる男は、なんとやら。

「じゃあ代わりに僕がクラサメ君の第2ボタン貰っておこうかな!」
「なんでよりにもよって、お前に渡さなきゃならないんだカヅサ。それに第2ボタンなんて無いだろ」

「え、だって僕と君の仲でしょ?」と涙目でクラサメを見つめるカヅサ。そんな彼を華麗にスルーし、クラサメはヒラヒラと花びらを舞い散らせる桜の木に歩み寄った。

「……ここの桜は咲くんだな」

噴水前広場。正面ゲートからのスロープを囲むように植えられている桜の木。
ここの桜の木はすべてが満開だった。
いまだに涙目のカヅサを慰めながらエミナはそんなクラサメの寂しげな後ろ姿を見やった。

「……本当は、クラサメ君フィアと」

皆まで言う前にエミナは口を噤んだ。
フィアではない同じ卒業生の存在が視界に入ったからだ。

「クラサメ君ー!あれ、ボタン全部残ってるね?意外〜!」

彼の隣に並ぶには酷く不釣り合いな彼女の存在を、エミナは決して良いものとは思っていなかった。
外見が、実力が、等と言う問題ではなくて。どちらかと言えば「どうして?」という疑問だった。

「ボタン私にくれるかな?」
「他をあたってくれ」

幸いなのは彼が大して彼女を相手にしていないように見えること。していないよう、と言うのはエミナの完全な勘であって。

(……まさか、ね)

ひらりひらりと花びらが舞い、エミナの肩に桃色が落ちる。クラサメの隣に居る彼女はじっと見つめるエミナの視線に気付き、エミナの方へ手を振りながら歩いてくる。
それが彼女でなくフィアならば良かったのにと、舞い落ちる桜と澄んだ青空のコントラストを目に焼き付けながらエミナは思った。

「卒業おめでとう、サユ」

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