ミーンミンミン
ミーンミンミン
ミーンミンミン
ミーンミンミン
ミーンミンミ
「おい!こいつまだ息があるぞ!」
パタパタと足音を響かせて複数の皇国兵が木の影へ集まってくる。そこには空色のマントの朱雀候補生が倒れていた。
「青いマント……おい、こいつヤバイんじゃないか?」
青のマントは確か朱雀の中で一番優秀な者たちが付ける色だ。今は倒れて気を失っているが、目覚めたら危険因子になる可能性が高い。
「殺せ殺せ!」
「ちょうど気失ってるしチャンスだ」
1人の皇国兵が前に出て倒れている少女に近付く。もしかしたら倒れているふりなのかもしれない。慎重に、武器を構え歩み寄る。1歩、また1歩。
大分近付いたところで皇国兵は武器を高く上げ、思い切り少女へ剣を突き立てようと振りかぶる。
「っし!」
「待て」
キンッ、と。
皇国兵の剣の切っ先を違う剣の刃が受け止めた。兵士は驚いて顔を上げ、更に驚いた。
「っか、カトル様!」
びしっと姿勢を正す。後ろにいた他の兵士たちも同じように背筋を伸ばし胸を張った。
「……女か」
カトルと呼ばれた隻眼の青年は倒れている朱雀の候補生を見遣った。自分と比べて2つ3つ年下だろうか。顎に手を当てて何か考えた後、カトルは先程彼女に剣を突き立てようとした兵士に言った。
「連れていけ」
「は?で、ですがこいつは朱雀の」
慌てる兵士に鋭い視線を送るカトル。
「っわ、わかりました」
「それから、救護班にでも言って直ぐに傷の手当てをさせておけ」
「はっ!」
胸の前で腕を斜めに付け、カトルに敬意を払う皇国兵。
「季節が、変わるな」
カトルは地面に落ちた蝉の亡骸を見て愛機ガブリエルへ足を向けた。
***
朱雀本陣の防衛はなんとか成功した。
通信や伝令により四天王全員に連絡が行き渡り、また1組の候補生たちも本陣に戻ってきたお陰でなんとか皇国軍の奇襲を防ぐことが出来、返り討ちに成功したのだ。しかし。
「どういう事だ!フィアが、いない?」
怪我人が多く集まる一時的な救護テントにクラサメの怒声が響き渡った。
「っ1組の候補生は……ひ、1人も運ばれてきていません」
思わず眉間を寄せるクラサメ。
隣にいたサユがふらふらと足元からその場に崩れた。
「私の、私の、所為だ」
「サユちゃん」
包帯を巻いてパイプ椅子に座っていた朱雀兵がポツリと彼女の名を呟いた。知り合いなのだろう。
「私が、私だけでもあの時残って、フィアを、フィアを」
「っ……」
クラサメはばっと踵を返しテントから出ていった。直後、ガンッと何かが蹴飛ばされたような大きな音がテントの外で響く。
「クラサメ君……」
一部始終を見ていたテントの中の怪我人や衛生兵はやりきれぬ思いで皆、クラサメの出ていった入り口を見つめていた。
そんな中、サユもゆらりと立ち上がってふらふらとテントの入り口へ向かう。
「サユちゃん?」
「クラサメ君に、謝らないと」
多分彼が一番気に病んでいる。
けれど「絶対に救護班に向かわせる」と宣言してしまった手前、サユの中にも罪悪感は生まれていた。
「もし、もしフィアが見つかったら」
「わかった。すぐに君達に連絡する」
サユはほんの少しだけ微笑んでテントを出ていった。