ひんやりとした空気が辺りをさ迷い、クラサメは自分の前を歩くヒラヒラと靡く朱いマントをぼんやりと見つめた。
エース、セブン、トレイ。
素早く任務をこなすには彼らが適任だろう、自分が今まで見てきた限りでは。
皇国軍の裏をついて混乱させるべく、急遽組まれた少人数編成。候補生3人に指揮隊長、そしてサポートが1匹。
クラサメ自身は前持って聞いていたが、0組にこの事を話したのは今朝。勿論、編成を組む3人にだけだ。
「隊長、そろそろ時間か?」
「ああ。日の出と共にこちらも仕掛けるのが命令だ。エース、セブンは先陣を切れ。トレイはバックアップを。他は私とトンベリがなんとかする」
「「「了解」」」
一瞬だけ、3人の声が少し明らんだ空に舞い登り掠り鳴く蝉の声を掻き消した。
合図は、日の出。
ゆっくりとゆっくりと、静かな太陽が姿を現す。ジリジリと、ひんやりと。
「行くぞ」
カード、ウィップ、クロスボウ。
それぞれの武器を手にした朱いマントの彼らが地面を蹴った。目指すはイングラムの背後。
クラサメも具現化した氷剣を片手に彼らの後を追う。そしてそんな彼の横でトンベリもまた包丁を握る。
登りだした日が徐々に姿を現した。
その時だった。
「っうわ!」
「エース、セブン……!」
先陣を切り駆けていたエースとセブンの真正面で、突如大きな火柱が上がる。
砂煙を含んだ爆風が激しく吹き荒れ、視界の悪さに目元を腕で覆う。
「っ隊長、あれは……」
無理矢理に開いた視界に見えたのは此方へ向かってくる皇国兵の部隊。少しまだ遠くハッキリと確認は出来ないが間違いない。
しかし目立った行動は取っていない。普通ならばこんなに早く気付かれるはずがない。ましてや確認出来た兵士達はそこそこの人数が揃っている。
考えられる線は1つだった。
クラサメは、1度瞼をキツく閉じた。
「エース、セブン、トレイ、先に行け!ここで足止めされる訳にはいかない」
足を止めた候補生3人へ腕を伸ばし先に進めと指示する。
どうせ前進したところで向かってくる部隊と衝突するのは決まりきった事。
「っしかし隊長」
「ここは私に任せろ。トンベリ、彼らを頼んだぞ」
だんだんと砂煙が晴れていく。
「お前たちなら、出来る」
そう伝えると、3人は強く頷きクラサメに背を向けた。トンベリが少しだけ名残惜しそうに彼を見るがクラサメはそっと首を横に振るとトンベリの頭をぽん、と撫でた。
日が昇る。
3人の姿が消えると辺りに再び静寂が訪れて蝉が鳴いた。ぐっと、レザーグローブ越しに氷剣の柄を握り直し、緩めた。
沈黙していた大地が色を取り戻す。
舞い上がっていた砂が止み、暖かな夜明けの陽射しが彼女を照らす。
酷く冷え込む朝だった。
ミリテスの土地だからか、秋の空気に片足を踏み出しているからか、それとも。
「これで、終わるな」
彼の心の体温が、か。
姿を現した太陽と、掠れた蝉の鳴き声。
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