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「馬鹿は程々にして、取り敢えず2手に別れて見張りを交代でするぞ。ここも、見付からないとは言い切れないからな」

呆れた様子のクラサメが周囲を見回しながら言う。彼らが今身を潜めているのは寂れた廃屋。何に使われていたかはわからないが、恐らく使われなくなってもう大分経つだろう。
クラサメの提案に他の3人も頷いた。

「フィアは、俺とコンビでいいだろ?」

どう別れるか聞くためにフィアが口を開こうとした時、それより先にクラサメが何気無くそう言った。
フィアは少し驚きつつきょとんと彼を見つめたまま軽く頷いた。横にいたカヅサとエミナがくすりと笑いを堪える。

「じゃあ、先に俺たちが」
「なら私とカヅサが先に見張っておくから、2人は休んでてよ!」

エミナの申し出に今度はクラサメが驚いた。そんな彼の背を焚き火のある方へ押しながらエミナは大袈裟にウィンクしてみせる。

「フィアもー、何か気配があったらすぐに私が2人に言いに来るから。しっかり休んでて」

とんとん、とフィアの肩を軽く叩いてエミナはカヅサを引っ張って行く。
小さくなる2人の背をきょとんと見つめながら、クラサメとフィアは顔を見合わせてそっと笑った。

「休むか」
「うん」



*



焚き火として使っていたのだろう、もう炭と化してしまっているそこに適当な木の枝を足して組み直す。フィアは軽く手を翳してからパチンと指を弾いた。魔力が放たれて同時に小さな火花が散り、枝に炎が燃え移る。パチパチと枝が燃え始め、炎が安定したのを見届けてフィアは近くのベンチに腰を下ろした。
ベンチと言ってもその辺の木を真っ二つにしたような適当なものだ。

「ちゃんと朱雀に戻れるかな」

朱くゆらゆらと燃える炎を見つめながらフィアはポツリと呟いた。彼女の背後で立っていたクラサメは少しだけ間を空けてフィアの隣に座る。

「通信が繋がらないんだ、隊長たちもそれを知ったら気付くんじゃないか?」
「そっか」

自分たちは死んだわけではない。
と言うことは隊長や武官や他の候補生の記憶には残っている。ちゃんと覚えてもらっているはずなのだ。

帰ってこない、通信が繋がらない、けれど生きているのならば何かしらの手は打ってくれるのではないだろうか。淡い期待は否めなかった。
勿論、それに甘んじはせず自分たちで突破口を見つけ院へ帰還することを最優先にしているけれど。

辺りはもう真っ暗で、先ほど灯した焚き火の炎だけがゆらゆらと動いている。
ふと、肩の力を抜いて深呼吸をして空を仰いでみる。飲み込まれそうな藍色の空に煌々と散りばめられた星屑が視界に入り、フィアは思わず目を瞬いた。

「クラサメくん、星、綺麗」

隣に座るクラサメの制服の袖をくいくいと引っ張る。言われた通りクラサメも顎を上げて空を仰いだ。

「ほんとだな」

誘われるように点々と星を目で追い繋いでいく。静かな静寂の空間がしっとりと2人を包み込む。

「ちょっと、寒いね」

ぽつり、とフィアが空を仰いだまま呟いた。大分暖かくなってきた時期だったがルブルムより遥か北に位置するこの地は確かに制服1枚では少し肌寒い。ましてや時間が時間なのだ。

その言葉を聞いたクラサメは藍色の空から隣にいるフィアへ視線を移した。
彼女はまだ煌めく星空を堪能していて。

「これなら、少しマシか?」

そっとフィアの肩を自分の方に抱き寄せる。少しだけ空いた隙間が埋まり、2人の距離がゼロになる。
クラサメの行動に、フィアは目をぱちぱちとしばたかせると柔らかく笑った。

「うん、あったかい」

クラサメの胸に頭を僅かに傾ける。
自然と体だけでなく腰や足もくっつくことになり、互いに触れている箇所だけはこの澄んだ冷たい空気の中でもじんわりとあたたかかった。

ゆらゆらと揺らめく焚き火の炎の様に、2人の心も朱く灯っていて。

「クラサメくん……」

一時の安堵感からか、その温もりの所為か。うとうとと微睡む意識を邪魔するものは無く、フィアはクラサメの胸に頭を預け瞼を閉じた。

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