「お前たちが一番遅く出ていったのに、一番早く帰ってくるとはな」
実戦演習の命令は皇国兵を10人始末してくる簡単な任務だった。勿論1組の候補生たちには簡単過ぎる任務だ。
「他の班はまだ任務中なんですか?」
「ああ、お前たちが一番だよ」
やれやれ、と肩を竦めながら隊長は何かをメモしている。多分成績関係のメモだろう。
「私はここで他の班の帰りを待つ。2人は魔導院に戻って自習でもしておけ」
「わかりました」
軽く隊長に会釈すると、クラサメとフィアはさっき通ってきたばかりの道を戻ったのだった。
*
「やっぱりクラサメくん強いね。さすがに兵士を一刀両断は出来ないや」
1組の教室。自分の席に着いたフィアは笑いながらクラサメに言った。
「フィアの方こそ、思ってたよりやり易かった」
教科書を開こうとしていたクラサメはそのままフィアを見て笑い掛ける。
「思ってたより、って事はあんまり期待してなかったんでしょ〜?」
「そんなことはないさ」と言うクラサメだが顔は笑っていた。これはそんなことあると言っているようなものだ。
「もー、クラサメくんまでわたしをからかうかあ」
「からかってるわけじゃない」
むすっと膨れて窓の方に顔を向けるフィア。足音が近付いてきたと思えばクラサメがすぐ傍まで来ていて、少しだけフィアの鼓動が速まった。
「フィアが……」
「あーもう!カヅサの所為でちょっと髪燃えちゃったじゃない!」
クラサメが何かを言い掛けたところで教室の扉が思い切り開いた。
驚いた二人は一斉に扉に視線を投げた。
「いやあ、あれは想定外だったと言うかね。ごめんごめん。て、あれクラサメ君にフィア君」
「カヅサ」
頭を掻きながら入って来たカヅサと目が合うクラサメ。どうやら彼らも任務が終わったようだ。
「エミナはカヅサと一緒だったの?」
髪を気にしながら席に着くエミナにフィアが問い掛けた。クラサメはカヅサと何か話している。
「そーよ。でもカヅサ、皇国兵の実験サンプルがどうの〜とか言って遺体の血液取ろうとしだして、危ない目にあったのよ」
なんとなくそんな場面が目に浮かんでフィアは苦笑いした。エミナは燃えてしまったらしいポニーテールの下の方の髪をチェックしている。
「だからエミナ君には感謝してるって」
「感謝されても燃えた髪は帰ってこないのよ!フィア、教えてやって」
「はーい!」
パチン、と話を振られたフィアが指を鳴らし、一緒だけ火花が散った。すると遅れて数秒後、
「あちちっ!ちょ、フィア君!」
カヅサの前髪がチリチリと燃える。
「く、クラサメ君助けて!ねえ!」
「これでいいか?」
楽しそうに笑いながらクラサメの手から冷気が放たれる。これにはフィアもエミナも声を上げて笑いだした。
「ちょ、!!クラサメ君!」
「フィアに燃やされたくないからな」
「あはは、クラサメくんナイス!」
カチカチに凍ったカヅサの前髪。
彼はこのあと暫く、任務を終えて帰って来た同級生達にその前髪はどうしたのかと笑いながら問われ続けるのだった。
*
「次の任務は国境付近からミリテスの領地を奪うことが目的だ。1組はこの間行った演習の要領で、2人1組に別れて皇国兵の排除を行う」
実戦演習から数日。
国境付近での小競り合いの多さに痺れを切らした朱雀軍はついに領土侵攻作戦の決行を宣言する。そしてその戦力として、彼ら1組も駆り出される事になった。
「班分けは私の方で既に行っている」
「またこの間と同じ感じか〜」
サユがこそりとフィアに言う。
「コンビの相手、変わるのかね」
この間は運良くクラサメと組むことになったが、またそうなるとも限らない。でも出来ればカヅサとは組みたくないとフィアはこの間のエミナを思い出し苦笑いした。
「第09班、クラサメ・スサヤ」
「はい」
そのクラサメが名前を呼ばれた。
少しだけ他の女生徒達がそわそわしている気がする。フィアはそんな中でふと窓の外に目を向ける。
「もう一人はフィア・サキト」
「はい?」
咲いていた桜は幾らか散っていて、今では汚ならしく地面を散らかしていた。
Continued.