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「今度のミッションでの失敗は許されない。勿論、クラサメ率いる0組ならば問題は無いだろうが」

武官の1人が薄く笑った。
ミリテスの領地へ再び奇襲を掛けることが決まったのはついこの間。魔導院のスロープ脇の桜は満開になり既に散っていた。暖かい、そう呼ばれる春の季節が過ぎ少し暑さを感じる初夏の季節。

比較的大規模なミッションの会議には0組指揮官のクラサメ、そのサポートとしてフィアとエミナ。そして武装研究部からカヅサ、他数名の軍属の武官達が集まっていた。

「0組は正面突破をお願いしたい。やはり1番始めに確実に道を切り開けるのは彼らが信用出来るだろうしな」

軍属の武官がクラサメを見て言う。
作戦ボードに指を向け、奇襲を仕掛ける最初のポイントへ指先を動かしていく。

「そして次に……」

特に自分には関係の無い話。
興味の無いカヅサはぼんやりと目の前を見つめていた。
指揮隊長とそのサポート。立場から、座るクラサメの横にはフィアが居た。
候補生時代にもよく見た光景。
武官の方を向き、真剣に話を聞き入るフィアの横には更にエミナが座っていて。

(懐かしいなあ)

3人をゆっくりと1度に視界に入れるのは酷く久しぶりのことだった。この間のリフレッシュルームではほんの僅かな時であったし、勿論それは候補生時代のあの日ぶり。
3人とも外形が少し大人びただけで、何も変わらない、特に変わらない。
それならば良かったのだが。

(まあ、研究には影響は無いんだけど)

腑に落ちないのはきっと、クラサメとフィアが何の違和感も無く隣同士に並んでいるからで。
カヅサはそれがとても不満だった。

「フィアは前線に出ずに魔導院で待機していてくれ。何かあった時に連絡する」

抑揚の無い声でクラサメはフィアに言った。彼の声で気付けばいつの間にか会議は終わっていたよう。カヅサは欠伸をしつつ耳だけを2人の会話に傾けていた。

「了解しました」
「私は第一陣営で0組の指揮を執る。主な作戦内容はまた後日」

やはり、違和感。

「クラサメ君〜、僕せっかく一緒の任務かと思ったら全然関係ないじゃないか」
「遊びじゃないんだ、カヅサ」

素早いクラサメの牽制にいつもの彼だと安心しつつも、やはり感じた空気は違和感そのものだった。

(ああ、これはもしかして)

「また事が決まり次第連絡する」
「了解。お願いします」

そう、クラサメの心の中にフィアと言う存在は居なかった。
フィアの胸の内にクラサメと言う名前は存在していなかった。

あたかもそんなように。
2人はまるでお互いの空間に干渉していなかった。
こんなにも近くにいるのに、いない。
まったく触れ合わない、遠い心。
平行線をただひたすらに突き進んでいるような、虚しい、感覚。

(ま、僕の研究に支障が無ければ、特に問題は無いんだけど)

カヅサはクラサメが好きだ。
勿論、フィアも大好きだ。
ただそれだけ。そこの式が成り立っていれば例えクラサメとフィアの関係がプラスにもマイナスにもなっていなかったとしても関係はない。そのはずだけれど。

(ちょっとだけ、変な気分だ)

背を向けて軍令部から出ていこうとするクラサメ。エミナと話しているフィア。

ミーンミンミンミン……

変わらないはずの今日を告げる、蝉。


Continued..
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