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「うーん、別に喧嘩したとかじゃないんだけどね。最近フィアのとこ行くと、先客がいてね」

少し面白くなさそうな、寂しそうな表情でエミナは窓の外を見る。倣って視線をそこに投げればスロープ脇の桜の木がほんの一瞬揺れた。

「最近1組に異動してきた子だろう?」
「当たり。私よりいつも先にフィアのとこいるんだよね」

そういえば最近1組の人数が微妙に増えていたか。名前こそ解らないけれど。
大抵はいつもこの調子で教室に行く。するとフィアは既に窓際の自分の席に座っていて、自然と4人で会話が進む。昼食や夕飯刻も約束はしていないのに何故か最終的に4人揃うことが多かったりしていたのだが。

「サユ君だっけ?」
「よく覚えてたな」

言われた名前に覚えは無かったけれど、エミナが頷いたので多分合っているのだろう。記憶力はカヅサの方が良いのかもしれない。

「まー、フィアに嫌われた訳じゃないから良いんだけどね」

けれどやはり少し寂しそうに、エミナはくるりと教室の方に向き直ると少し足早に歩き出した。そんな彼女の背につられるように足を前に動かすと、カヅサも同じようについてくる。
両開きの扉が朝は開いていて、見慣れたいつもの黒板と机が視界に入る。

「フィア!会いたかったよ〜!」
「ぐえ」

目的の人物をいつもの場所に見つけたエミナは勢いよく駆け出して、そしてそのままのし掛かるように抱き着いた。
抱き着かれた方は不意打ちに対応しきれず蛙が潰れたような声を出し、カヅサが俺の隣でぷっと吹き出して笑う。

「おはようフィア君。ところでフィア君は腹に蛙って飼ってたっけ?」

眼鏡のブリッジを押し上げながら、カヅサがエミナとフィアの元に歩き出す。

ふと、フィアの背後、窓の向こうの桜の木から一片、花びらが散った気がして。

(………)

ひんやりと、佇む桜が何だか不気味で。
感じた視線に窓からそこへチラリと目を向けたのだけれど。

(気のせい、か?)

視線の先の少女は最近親しくなった自分の友達がカヅサやエミナと戯れているのを微笑ましげに見つめていて。

「二人共酷いな。クラサメくーん、エミナ君とフィア君が苛めるよー助けてー」
「自業自得だろ」

疲れているんだろう。
そういえば今朝、柄にもなく嫌な夢を見て目を覚ましていたんだ。助けを求めてくるカヅサを適当にあしらって、俺は漸くいつものように朝の挨拶を告げたかった人物と視線を交わした。





「おはよう、フィア」
「おはよ、クラサメくん」



いつものように、
そう、それがいつもの日常。

いつもの朝、いつものカヅサ、いつものエミナ、いつもの廊下、いつもの教室、そしていつもの他愛もない会話たち。


俺はまだ知らなかった。
そんな何でもない“いつもの”出来事さえこの手を離れて、暗い静寂の冷たい空間に置いていかれるなんて。

ぽっかりと心に隙間が出来て“それ”が地上深くに潜ってしまう。


「もー、朝から二人見せ付けてくれちゃってえー。フィアはわたしのなんだからねクラサメ君!」





蝉が鳴くまであと少し、
長い針が刻を告げるまで、君を




席に着いた。
チラリと窓際後ろを横目に見る。
満開の桜の木を背の高いガラス窓越しに見つめる、君。


*fin*
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