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「恐らく次のミッションに編成されるのは0組ではないです。諜報部も今回のミッションには関わっていません。朱雀の狙いも白虎の士気を下げるのと戦力的に多少のダメージを与えるのが目的かと」

相変わらず白に染まっている外の景色が眩しかった。ここ、イングラムはいつでも少なからず肌寒い。
春先になっても冬に積もった雪はまだ少し残っており、ルブルムの景色とはやはり大分違っていた。

「朱の魔人が動かないのであれば、何かと此方が有利だな。ご苦労、フィア」

カトルは何かを考えながら真面目な顔付きでフィアを見た。そんな彼の表情にフィアの背筋もピンと伸びる。が、

「来い」

瞬間、ふわりとカトルの纏う雰囲気が和らぎ、弧を描いた彼の口元。
こちらに来いと手招きされて、フィアは導かれるようにカトルの元に近付いた。

そっと、背中に腕が周りゆっくりと抱き寄せられる。鼻腔を掠めたカトルの香りに、緊張の糸がほどけた。

「カトルさん」

見上げると、少しだけ戸惑ったように笑うカトルの顔がありなんとなくフィアも首を傾げる。それに直ぐ様気付くのが彼で、フィアの肩に手が置かれた。

「本当にいいのか、フィア?」

じっと、アイスブルーの瞳が見つめる。
その冷たい色彩の水晶体に自分の顔が映っているのがわかり、またフィアの心は安堵していた。

「私の傍を選んだことは構わない。しかし、何も朱雀に残って諜報行為を強要した訳では」
「違います」

心配そうにフィアを見つめるカトルの目を、真っ直ぐに彼女も見つめ返す。

「カトルさんの、わたしを救ってくれたカトルさんのお役に立ちたいんです」
「フィア……」

カトルは確かに彼女を助けた。
手厚く面倒も見てくれて、保護してくれていた。けれど彼は恩を返せなどとは思ってはいない、寧ろ。

「私はお前がいるだけで、十分だと思っている。それでも」
「それでもわたしは、あなたの役に立ちたい」

真剣なフィアの眼差しに、カトルはそれ以上何も言わずただ彼女を抱き締めた。




*




「そういえばこの間の2組のミッションが失敗した件、内通者がいるんじゃないかって噂になってるんだよね?」

外の空気が大分暖かくなったとある日。
遅めの昼食をカヅサ、エミナ、フィアの3人は人の少ないリフレッシュルームで取っていた。

「あのミッション失敗したのかい?」

武装研究の主任であるカヅサは知らなくても仕方がないのだろう「意外」とでも言いたそうにハンバーグを口に運ぶ。

「予想より皇国兵の数が多いのと、潜入したあとも半端ない数の増援が来たらしいのよ。ね、フィア」

オムライスをつついていたフィアは隣に座るエミナの言葉にコクリと頷いた。

「内密なミッションでは無かったと思うけど、怖いもんだね。僕も実験資料や機密書類を洩らされないよう気を付けなくちゃ」
「バカヅサの実験資料なんて見たがる奴いるの?」

ダイエット中だからとサラダだけ頼んだエミナはレタスをつつきながらピシャリと一言突っ込んだ。フィアは手を止めてくすくすと笑った。

「酷いな2人共!僕の実験は他人に知られちゃいけないとても重要な……」
「ねえ、フィア」

狼狽えるカヅサの言葉を切って、エミナは突然フィアに向き直った。
エミナの改まった表情に少し胸騒ぎがしながらも、フィアは彼女の目を真っ直ぐに見つめ返す。

「オムライス、美味しい?」

そう呟いたエミナの顔は何故か少し寂しそうで。否、勘違いかもしれない。
カヅサも不思議そうにエミナの顔を伺いつつ、フィアにも視線を向ける。

「うん?美味しいよ?」

そう、返すフィア。
ゆっくりとエミナの口元が三日月を描いて微笑み返された。

「そっか。良かった。
リフレのオムライス、久しぶりでしょ?クラサメ君もフィアも、2人揃ってよくオムライス食べてたから」

カヅサは何か悟ったのか、彼も少しだけ切なそうな表情をしていて。そんな同期の2人の雰囲気に気付かないフリをして、フィアは曖昧に笑った。

「そうだっけ?わたしはそうだったような気がするけど、クラサメくんのことは覚えてないや」

それ以上余計な事を言わないように、スプーンに乗せたオムライスを口に詰め込んだ。何の味もしなかった。

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