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「……、フィア!」
「わっ、て、え?クラサメくん?」

桜吹雪に見入っていると突然肩を揺すられて慌ててフィアは教壇の方に背筋を伸ばして向いたのだが。

「隊長の話、聞いてたか?」

何故かそこにいるはずの隊長の姿は無くて、何故かそこにいるはずの無いクラサメが真横にいた。辺りを見回せば何故か他の候補生もいない。

「え?あ、……聞いてない」

一瞬寝ていたのかと思ったが時計を見ると時刻は先程からあまり変わってはいない。クラサメの問いに申し訳なさそうに答えると彼ははあ、と溜め息をついた。

「コンビネーションを図るための実戦演習。フィアは最初、俺とコンビだ」

どうやら自分が耽っている間にチーム割りを隊長が発表したらしく、他の面々は既に演習場所に向かったようだ。慌てて立ち上がって頭を下げた。

「クラサメくんごめ……ったあ!」

勢いよく下げた頭が机にぶつかった。
額を抑えて擦りながらフィアは俯いた。ああ、みっともない。成績優秀で容姿端麗、女子の人気が凄まじいあのクラサメに見事なまでに間抜けな姿を露呈しまくっている。まあ、今に始まったことではないのだが。
何も言わないクラサメに、呆れられてしまったのかと思ったその時。

「っ、ははは」
「って、クラサメくん!?」

堪えるような笑い声に顔を上げると、クラサメが口元を抑えて笑っていた。

「わ、笑うこと無いじゃん!」
「フィアってたまに抜けてるな」

かあっと頬が熱くなった。
決してどじっ子属性ではないのだが、クラサメの前だとどうも自然な態度を取りづらい。ツボったのか、まだ笑ったままのクラサメの横をフィアは不機嫌顔で通り過ぎた。

「もー、置いていくからね!」




*




ルブルム地方。
空色の厚い生地のマントを付けた朱雀の候補生が二人、国境付近の紛争地帯に悠然と赴いた。

「行くぞ、フィア」

1人は冷気を纏った剣を片手に。

「了解。クラサメくん」

1人は握った銃のグリップを振り、大きなエッジを煌めかせ。

《1組・第09班、指示ポイントに迎え》

「「了解」」

クラサメとフィアは同時に駆け出した。

此方に気付いたミリテスの皇国兵が銃を乱射しながら近付いてくる。フィアはテンポ良くそれを避けると隙を見て兵士へ詰め寄った。

「1人、」
「ぎゃあああああ!!」

味方の断末魔に皇国軍の兵士達は一斉に此方に意識を向けた。その中から3人、四方八方から弾を撃ち込み走りよってくる。軌道を読んでなんとかそれを避け、感じた冷気にフィアは一度背後に飛び退いた。

「4人、」
「「「うああああああ!!」」」

すぐに前を見れば皇国兵3人は氷の彫刻と化していて、苦笑いを1つ溢しフィアは背後を狙ってきた別の皇国兵の頭を散弾銃で撃ち抜いた。

「5人」
「くそ、あいつら強い」

控えている他の兵士がぼそりと洩らす。
勿論その言葉を聞き逃すような二人ではない。一瞬で間合いを詰めたクラサメは鋭い刃で兵士を一刀両断する。

「このおおおお!!」
「ガキがあ!!」
「雷鳴、轟け!」

クラサメに斬りかかろうとした兵士2人にフィアはサンダガを放った。

「8人」

「ひ、ひいいい!逃げろ!逃げっ、ぐ」

「9人」

クラサメの氷剣の刃を赤いそれが滴る。
辺りにいた皇国兵はすっかり姿が見えなくなり始め、2人は意識を集中させ周囲を見渡した。

(気付くな、気付くな、気付くな)

カタカタと震える防具の音を、2人は聞き逃さなかった。

「「10人」」
「ぎゃあああああ!!」

クラサメの放った氷が隠れていた皇国兵を容赦無く凍らせ、フィアの放ったショットシェルがそれを砕いた。バラバラに散った皇国兵。辺りには2人が絶った皇国兵達の亡骸が。

「命令通り」
「10人、だな」

シュンッと氷剣を消すクラサメ。倣ってフィアも銃を消した。

「此方1組・第09班、帰投します」

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