太陽は、彼らを嘲笑うために昇るのか。
蝉達は、何のために鳴いていたのか。
無垢な金色の瞳は、悲しく歪むフィアの顔を黙ってじっと見つめていた。
そうしてそっと、彼の小さな手が伸びる。
「っ……トン、ベリ?」
ピタリ。少しだけひんやりとした小さな手がフィアの頬に触れる。
途端に、堪えていた感情が押し寄せた。
「……っ、優しい、んだね」
返事は勿論返ってこない。
無言の沈黙が続く。
夜の匂いに交じり、何故だか少しだけ懐かしい香りのするトンベリ。
ゆっくりとゆっくりと、小さな手が頬を撫でるように上下した。
「ね、わたしね……」
既に視界がぼやけていた。
温もりを求めるように小さな体をそっと抱き上げて、ぎゅっと、抱き締めた。
「……っ1人に、なっちゃったんだ」
声に出して夜の空間に吐き出した言葉はあまりにか細くて。けれど黙って消えてはくれない。ぽろぽろと涙が溢れ出してくる。トンベリは何も語らず、フィアの言葉を聞いていた。
「1人って、っこわいんだね……」
トンベリのローブに涙が落ちた。
フィアの涙はじわじわと広がり、点々と濃い染みを作る。少しすれば消えてしまう、時間と共に消えてしまう、消えてしまった彼女の居場所のように。
「寂しいんだね……1人って」
「1人じゃないよ」まるでそう言っているかのように、トンベリの小さな両手がフィアの頬を包み込んだ。小さな優しさが嬉しくて、けれど涙は止まらない。
どうしてこうなってしまった?
あの時クラサメを庇って撃たれたのが間違いだった?
いや、クラサメと同じ班だったのが間違いだったのか?
そもそも、クラサメを好きになったのが間違いだった?
好きになったのが、間違いだった?
「……わたし、クラサメくんのこと」
好きなんだよ。
大好きなんだ。
白虎にいた時、不安でどうしようもなくて。殺されるかもしれない。強姦されるかもしれない。襲われるかもしれない。いろんな恐怖に押し潰されそうで。
クラサメくん、クラサメくん、
何度も彼の名を叫んでいた。
叫んだ名前は君には届かない。
だけれど確かに、フィアの胸の内に反響して確かな勇気を与えてくれていた。
なのに。
「もう、やめよう……」
クラサメの心に自分の居場所はない。
もう、なくなってしまった。
8年という月日が作った隙間は、もう埋められなかった。
好きなんだ。
大好きなんだ。
だからこそ。
「カトルさん、わたし……」
トンベリを更に強く抱き締めた。
彼は何も答えない。
答えるすべを持っていない。
声にならない思いを託して、フィアの服をぎゅっと握り締めるも。
小さな願いは届かない。
命を救ってくれたのはカトル。
優しく包んでくれたのもカトル。
心が折れなかったのは、カトルが傍に居てくれたからだ。
だからこそ。
暗闇にぽっかりと月が浮かんでいた。
冷たい空間に佇む月は、寂しげで。
この夜に、終わりを告げよう。
今年もきっと、サクラが咲くことはないのだから。
Continued..