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「――不当に占領しているミリテス皇国から村を、町を、住人を解放することに力を合わせることで合意いたしました。これはルブルムのみならず、オリエンスに与えられた試練です。皆さんは今日のこの日を、オリエンスの新たな――」
院長室のソファー。
魔導院を制圧するのが目的だった白虎。
勿論フィアはそれを知っている。そして朱雀が魔導院のアギト候補生達を主体に戦っていることも、元アギト候補生として知らない筈がない。しかし。
(0組、そんなクラスあったんだ)
彼女が候補生の時は一応一番優秀なクラスとされている1組に所属していた。
当時、朱雀最強とまで詠われた朱雀四天王の3人がその1組に属していて、それ以外の候補生も勿論四天王に負けず劣らず強かった。
(0組、四天王……みたいなものかな)
四天王級のクラス。
完全に劣勢とされていた戦況を突如覆したのは彼らだった。魔法局の局長、アレシア・アルラシアが秘蔵として育てていた特別な候補生。
白虎が独自に開発したクリスタルジャマーという、クリスタルの力に干渉して魔法を使えなくさせる装置。どうやらそれが今回の戦いに導入されたようなのだ。
しかし彼らはそのジャマーの影響を一切受けず、魔法が使えたらしい。
(0組、四天王)
そんな彼らの活躍のおかげで白虎の軍勢をなんとか押し留め、魔導院を守り抜くことには成功した。
(四天王、……クラサメ、くん)
バタン、と院長室の扉が閉まる音にはっとして視線を上げた。カリヤは既にノックの音で気付いていたらしい。
入って来たのは1人の候補生で。
「院長!玄武に禁呪反応が!」
なるべく平然を装いながら彼の口から告げられた、残酷なその報せ。
「なにっ!?」
「玄武に?」
戦況から8年も離れていたフィアでも理解出来たその報告に、不意に浮かぶのは一人の隻眼の男の顔。
「くそっ」
悔しげに呟くカリヤ。
フィアは無意識に頭を軽く振り、浮かんだその残像を振り切った。
今まで自分を保護するように預かってくれていた彼は、白虎の人間だ。
勿論アルテマ弾投下の報せを彼も知っているはず。彼は、カトルは今、何を思っているのだろうか。
*
「一先ず、今日出来ることはここまででしょう。また明日から、町や民を守るために戦わなければなりません」
夜も更けた頃。
院長室に再びカリヤが戻ってきていた。
「さて、フィア。貴方の処遇を決めなければなりませんね」
フィアはソファーから立ち上がった。
朱雀に戻ってきた以上カリヤの発言には絶対的なものがある。彼がフィアをどう思っているかはわからないが、彼女の意志は無論決まっていた。
「貴方は、何を望みますか?」
カリヤは真っ直ぐにフィアを見据え、フィアもまた真っ直ぐカリヤを見る。
少し沈黙が続いた後、フィアはゆっくりと口を開いた。
「白虎に捕らわれていた8年間、候補生や武官として朱雀の力になることは出来ませんでした」
カリヤを見つめるフィアの瞳は決して揺らぐことはなかった。
「けれど、気持ちだけは魔導院の、アギト候補生1組として戦っていました。今もその気持ちは変わりません。カリヤ院長、もし許可してくださるのでしたら、わたしをもう一度朱雀の人間として!」
カリヤはすっと手を挙げ、フィアの言葉を制した。
「いいでしょう。貴方の気持ちは受けとりました。それに、貴方を朱雀から追放したつもりはありません」
時計の役割も果たす窓枠に縁取られたガラスの窓。あの地平線の先に、フィアはいたのだ。けれど。
「明日から、正式に魔導院ペリシティリウム朱雀の武官として共に戦って貰いましょう」
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