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カトルが何故突然フィアを解放してくれたのかはわからない。けれど、彼女にとって悪い報せではない。こうなることを少なからず望んでいたのだし、何も負債を負わず帰れるかもしれないのだから。

「っ……」

森を抜けたフィアはそれでも走り続けていた。皇国軍はそろそろ侵攻の合図を出しただろう。
朱雀に進軍することを告げられ、身柄を解放してくれると言われた日からある程度の体力は取り戻そうとそれなりの努力はしていた。けれどやはり、昔のように動けたわけではない。

「カリヤ……院長に、っ」

ぼんやりと見えてくる魔導院。
今頃院内では進軍してくる白虎の軍勢への対応にてんやわんやしているのだろうか。その中に彼の姿はあるのだろうか。

「クラサメくん……」

ぐっと拳に力を入れ、フィアは視界に映る魔導院目掛け、足を進めた。
懐かしい門が見える。魔導院の入口で、案の定フィアは足止めを食らった。

「何者だ!?」

ローブのフードを目深に被っていたフィアはそっとそのフードを下ろし、片方の見張り兵の目を見据えた。

「カリヤ院長に用があります。フィア・サキトと言います」

弾む息を抑えながらフィアは言った。
しかし突然、そんな彼女の要求が受け入れられる筈もなく。

「駄目だ。そんな名、聞いたこと無い」
「っお願いします、急いでお話しなければならないことが……」

ひゅんっと、鋭い剣の切っ先を突きつけられた。
対応の仕方から、皇国軍が攻めてきていることは見張り兵にまでしっかりとは伝わっていないらしい。
どうやって受け入れて貰おうか、考えている時だった。

「おい、ちょっと待てよ」

もう一人の兵士がフィアの顔をじっと見つめた。

「フィア、フィア・サキト……」

そうして顎に手を当てて、フィアの名前を反復しながら何かを考えている。「もしかしたら」焦れる気持ちを抑えてフィアは見張り兵の次の言葉を待った。

「思い出した!あんた、何年か前に1組の候補生だった!」
「っそうです!」

彼の言葉に、フィアは思い切り頷く。

「確かアレだ、クラサメ士官やエミナ士官の代の」
「はい!他に、カヅサ・フタヒトやサユ・ヤノガミが」

見張りの男は大きく頷いて剣を下げた。
フィアはほっと胸をなで下ろす。

「逃げてきたのか?白虎の捕虜にさせられたって聞いたが」

男が誰なのか解らなかったが、兎に角今はそんなことどうでもいい。
カリヤ院長に会わせて貰えるかも知れない、僅かな期待を胸にフィアは落ち着いて話し出した。

「今、皇国軍は魔導院を制圧しようと進軍しています」
「進軍……?」

やはり情報はしっかりと行き届いていないのだろう。ここに来るまでに見えた町も穏やかに時が流れていた。

「嘘じゃありません!お願いです、詳しい話をカリヤ院長にお伝えしたいんです……!会わせてください!」

なりふり構わずに、体を折り曲げて座り込みぐっと頭を地面に付けた。
そんなフィアの行動に見張り兵は慌てながらも、そっと彼女の肩を叩いた。

「わかった。ただし完全にお前を信じた訳ではない。元候補生だからといって、白虎に寝返った可能性だってあるんだ」
「はい、もし不審な行動を取ったら、その場で殺して貰って構いません」

自分は朱雀に帰る事を望んでいた。
怪しい行動など取る気はさらさら無い。カリヤ院長に皇国軍の作戦の内容を知っている限り話し、そしてもう一度自分を魔導院の人間として受け入れて貰えないか頼みたいだけだ。

「来い、カリヤ院長の元へ案内する」

8年前、帰る事の出来なかった魔導院。
門へ続くアスファルトの道を、フィアは一歩、ゆっくりと踏み締めた。

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