10(2/3)

「警戒しないで。僕は別に君を責めに来たとか、探りに来た訳じゃない。ただ」

少し間を開けて、カヅサは真っ直ぐにクラサメを見据えた。

「このままじゃ、君が壊れてしまうんじゃないかって、思って」

そう言うとカヅサはハンバーグにフォークを突き刺した。クラサメは受け取ったスプーンをぼうっと見つめた。

「食事の前にごめん。食べなよ。冷めちゃうだろ?」
「……頂きます」

律儀にそう一言告げ、クラサメもオムライスをスプーンで掬う。

「なんか懐かしいね。フィア君もよく、オムライス食べてた」

仲は良かったものの、お昼は別々に食べることが多かった彼ら。リフレッシュルームでフィアを見付けると、大体は彼女が食べているのはオムライスだった。

「クラサメ君も結構よく食べてるよね。本当君たち、気が合うな」

羨ましいのか、褒めているのか。
カヅサはハンバーグを口に運んだ。
何となく思い出して、クラサメも無意識に口を開いていた。

「町に、出掛けた時に」

カヅサはそんなクラサメに目を向ける。
何とか話を広げて彼にも話しやすい空間を作らなければと考えていたカヅサは、自分から話し出してくれたクラサメに少し安堵した。

「たまたま入った店で食べたオムライスの中のチキンライスが白くて」

真顔で話すクラサメ。
パチパチと瞬きして彼を見るカヅサ。

「チキンライスは白じゃダメだって、フィアが怒ってたことあったな」
「ぷっ、なにそれ?」

砕けた話の内容に、笑いが洩れた。
クラサメも少し柔らかくなった表情でスプーンを口に運んだ。

「フィア君ってたまに、変なところでムキになるよね?」
「いつも履いてるブーツのヒール、高くて歩きにくくないか?って聞いたら怒られたこともあった」

クラサメから聞かされるフィアの話にいちいち笑いが止まらないカヅサ。遠慮せず笑い続けるカヅサに、クラサメの心も幾分か軽くなっていた。

「あはは。うん、やっぱり、クラサメ君は、フィア君の話してる時が一番、幸せそうだ」
「………」

笑いすぎて出た涙を指で拭いながら、ハンバーグの入っていた空になったプラスチックのケースにフォークを放ったカヅサ。
クラサメは少し暗い表情で俯いた。

「好きなんだろ?フィア君のこと」

また真っ直ぐに視線をクラサメに向けるカヅサ。しっかりと真剣な眼差しで。

「だから、自分が許せない」

彼はわかっていた。
クラサメが自分を責めている事だって、彼が孤独を抱えている事だって、どうしようもない暗闇の中一人で、自分の首を絞めている事だって。
勿論、エミナもわかっているだろう。

「けど君がどうやって、フィア君の抜けた穴を埋めようが、僕には関係ない」

冷たいようなその言葉は、カヅサなりの優しさでもあった。

「でも、君がフィア君を心配しているように。君を心配している人だっていることを、忘れないで」
「カヅサ」

ふっと微笑んだカヅサに、胸が痛んだ。
自分は彼らに心配されるような良い人間じゃない。
フィアがいなくて、足りなくて、空いた隙間を彼女じゃない何かで埋めようとして。

「すまない……」

そう一言、返すしか出来なかった。

「それが、どういう意味合いなのか理解しかねるけど。僕もエミナ君も、君を責めたりしないよ。友達、だろ」

空になったプラスチックの容器と、冷めたお茶とクラサメとを順番に見比べて、カヅサは徐に立ち上がった。
自分が出来るのはここまでだ。

けれどこの時、既に彼の心は崩壊へのカウントダウンを踏んでいて、引き返せない一線を、越えていた。

next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -