09(2/3)

謹慎、と言うことは授業に出るのも許されないらしい。代わりに反省文と幾らかの課題を渡され、すっかり気分は不良候補生だった。
まあ、課題も反省文も彼に取ってはなんら問題ないのだが。

「………」

昨日から頭の整理が上手く出来てない。
皇国軍の捕虜になったフィア。
「カトル」と言う男に気に入られて。
捕虜でなく保護的な扱いを受けていて。

「……っ」

そこまで考えてやはり、クラサメの思考は堪えきれなくなる。

――考えてたでしょ?貴方だって、……フィアを、自分の下で仰け反って、自分の与える快感によがるフィアの姿

“クラサメくん”って悩ましげに可愛い声で呼ばれて“もっと”ってねだられて“気持ちいい”って恍惚と言われて


考えていなかったわけじゃない。
男だったら誰だって、気になる子の服の下ぐらい想像する。
彼だって真っ向から純粋にフィアを見たことがあるかと言われれば、邪な気持ちで見ていたことだってあった。

自分以外の知らない誰かの手が、彼女に触れて、彼女を抱いて、その先までも要求しているなんて。苦痛だった。
けれど本当に苦痛なのは自分じゃない。
そんな自分の苦悩の数十倍、彼女、フィアは苦しみを味わうことになる……否、もう手遅れなのだろうか。

「くそ……」

ばふっと、音のしないベッドを殴り付けた。スプリングの所為で跳ね返る腕が滑稽だった。
自分があの時、フィアを見捨てさえしなければ。狙撃手に気付いていれば。
もう何度後悔したかわからない、蝉が咽び鳴くあの季節。

脳裏にこびりついているのは、嘲笑うように哀しげに鳴く、蝉の声。

「……フィア……」

苦し気に呟かれた彼女の名前。
彼女がまだ生きている証。
残酷なようで慈悲に富んでいるようで。
クリスタルに感謝するべきなのか否か、彼にもよくわからなかった。

最後に握ったフィアの手の感覚はだんだんと薄れていくのに、瞼の裏に焼き付いたフィアの眩しいほどの笑顔は、反比例するように日々鮮明になっていく。

止まらない 抜け出せない
彼女への想い 迷い込む暗い迷路
ぽっかりと空いた穴をすり抜ける、優しい笑顔のフィアの残像。

寒さに震える体を温めようと、戦場や任務に身を投じていればまだ気休め程度にはなっていた。
けれど今となってはその術すらも奪われてしまい、また彼は寒さに震える体をどうにかしなければならない。

あたためてほしかった。
花の綻ぶようなフィアの笑顔で。
無邪気に笑う、フィアのくすぐったい声と、優しい温度で。

「クラサメ君」

嗚呼、ついに幻聴まで聞こえてきたか。
ふわふわとした感覚が体を持ち上げる。

「クラサメ君」

名前を呼ぶのは、

「クラサメ君」

フィアでは、ない。

「っ……!」
「やっと起きた、クラサメ君……」

いつの間にかベッドに伏して眠っていたクラサメ。窓の外はとっくに日が落ちていて暗かった。そんな彼を横で心配そうに見ていたのは。

「……何しに来たんだ」

フィアの友人、サユだった。
昨日の今日で、あまり彼女には会いたくなかった。と言うか、勝手に部屋に入って来たのか。

「うん、謹慎処分になったって聞いて」

さすがと言うべきか、噂の周りは早いものだ。クラサメ程の成績と実力の持ち主が不祥事から謹慎処分になれば、騒がれないわけが無いのだが。

「だからなんだ。……勝手に部屋に入ってくるなよ」

昨日からの苛立ちが沸々と沸き上がる。
考えて見ればあの時だって、この女の提案に乗ってフィアを置き去りにした。あの時自分1人だったら、確実にフィアを本陣まで連れ帰っていたと言うのに。
理不尽に募るクラサメの苛立ち。

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