08(2/3)

魔導院に戻るなり、門の近くのサクラの木になど目もくれず自室へ向かった。
小さな命の蕾にさえ、彼は気付かず。

自室の扉のノブに手を掛けた時。今でこそ聞き慣れた足音に手を引っ込める。案の定、その足音は彼の横で止まる。

「クラサメ君、ちょっといいかな」

サユだった。
最近何かと自分に寄り付いてくる彼女。正直今は気分じゃない。けれどそんなのお構い無しに、彼女は話を進めていく。

「廊下じゃあれだから、クラサメ君の部屋でいいかな?」

いいかな?なんて疑問系にしながらクラサメの部屋に有無を言わさず押し入ってきている。これでは彼に拒否権など無いに等しい。
図々しい女だな、そう感じた。

「なんだ、話って」

早いところ用件を聞いて返したらいい。
そう思いクラサメは部屋に入るなり椅子にも座らず、座ることすら促さす腕を組んで問い掛けた。少し、先ほどの事でイライラしていたのかもしれない。

「エミナから、話は聞いたでしょ?」

そんなクラサメのイライラを気にも留めず、サユは真っ直ぐに彼を見て答えた。
クラサメはゆっくり頷いた。
裏庭のサクラの咲かない木。
そこに1人でいた日、膝掛けを肩に掛けてやってきたエミナに言われた言葉。

『……あのね。フィア、やっぱり白虎の捕虜になったみたいなんだ』

エミナの知り合いの諜報部員がこっそりと教えてくれたらしい。向こうでフィアらしき人を目撃した者がいると。
クラサメも勿論これは覚悟の上だった。
なのに今更、それがなんだと言うのだ。
先を促すよう黙ってサユを睨んだ。

「そのフィアなんだけどね、どうやらお偉いさんに気に入られてるみたいで」

“お偉いさん”
貴族か、幹部か、どちらにしろそういう地位のある部類の人間のことだろう。

「っ」

頭で冷静に受け流そうとして、出来なかった。
たったさっき、殺してきた男達の会話を聞いていたからだ。
青いマント“カトル様”のお気に入り、可愛がられてる。
クラサメのほんの少しの表情の変化を、サユは見逃さなかった。

「気に入られてる、って言うだけあって捕虜じゃなくて、保護されてるみたいに扱われているみたいよ。綺麗な服着せてもらって、食事もちゃんともらってて」

クラサメの心で警鐘音が鳴り響く。
視線を落とすと、紐の切れた革靴が目に入った。さっき、切れた、紐。

「まさかタダでそんな良い扱い受けるわけないよねえ?仮にも朱雀……敵の候補生なんだし。私達は結局、傭兵みたいなものだし。ねえ、クラサメ君」
「っ……」

顔を、上げる。

「この意味、わかるよね」

目の据わったサユの顔が、あった。
クラサメは思わず後ずさった。
今までこんな彼女の表情は、見たことがない。こんな、こんなに。

「フィア、可愛いもんねえ。もしかしたら自分からお願いしたのかも」
「お願い……?」

無意識に聞き返すとサユは馬鹿にしたように鼻で笑い、クラサメをまた見た。

「私を性奴隷にしてくださいって」

言葉が返せなかった。
と、言うより。頭が真っ白になった。
自分の知っているサユはいつもフィアの隣で屈託のない笑顔で笑っていた。
これは、誰だ……?

「だって死ぬより性ペットになって辛うじて生きてる方がマシでしょう?女の特権だね。今頃白虎の将軍辺りの下であんあん喘いでるかもね、きもちーって」
「っおまえ……」

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