07(2/3)

ツンとした刺激臭で鼻を覆われ、それが布だと気づく頃には力は抜けていて。
後ろから羽交い締めされ、更には複数の兵士に囲まれていると気づいた頃には意識はもう覚束無い。

「なっ、あなた、たち」
「悪いな。ちょっと相手してくれよ」

声はリューゲのものではない。
仮面に隠れ表情は見えないが、ニタニタと笑っているようなその声に酷く嫌悪感を覚えた。まずい、逃げなければ。
頭でそう思うことは簡単でも、実際は体が痺れて思うように動かない。

同時にフィアは自分の浅はかな行動をとても後悔した。前線から離れて半年といえ、腐っても自分は朱雀が誇るアギト候補生1組。何故彼らの狙いに気が付けなかったのだ。

(ほんと、ばか……)

「もっと派手に抵抗しねえのかよ?」
「無理だろ。力入らねーだろうしよ」

奴らの言う通り、体に力は入らない。
魔力を手に込めてもまるで炭酸が抜けていくように無意味だった。
諦めと言うのは、案外強く決意したり胸に誓ったりしなくても簡単に出来るもので。決意の下、誓いの下の諦めより「ああ、無理だ」あっさりとそう思う瞬間。それが本当の意味での諦めなんじゃないかと思う。

「カトル様のお気に入りなんだろ?」

仮面を付けたままの男に、腕を後ろから頭の上で拘束される。脱力した肩では抵抗は出来なかった。

「候補生だからまだまだ体も若いだろ」

ぞろぞろと数人の兵士がフィアの体に舐めるような汚ならしい視線を注ぐ。
がくりと項垂れて据わらない自分の首が唯一の救いだった。

男の手が大腿に触れる。
その瞬間だった。表しようの無い不快感と嫌悪感、悪感に体が震えそうになったのと同時に。

(ああ、無理だ)

諦め、が浮かんだ。
彼女はこれで2回目の経験だった。
1度目は蝉が咽び鳴くあの季節。
小さくなる、彼の背中を朦朧とする意識の中で。ただ喚くだけの蝉の哀しい生きた音と共に見つめていた。
湿気った生ぬるい風はまるで自分が殺した人間の血を含んでいるみたいで。

その血はだんだんと見えなくなる彼のマントにもこびりついていた。
空色の、自分と同じ、1組の証の。

「フィア」

そう名前を呼んで、笑ってくれた時の彼の顔が大好きだった。
気恥ずかしそうにはにかむ表情や、悪戯っぽく頭を撫でてくれる顔。カヅサと話している時のまた違った表情や、戦場で見せる少し冷酷とも取れる無表情。
クリスタリウムの窓際で本を開いたまま居眠りしてる時のあどけない表情や、少し拗ねた時の不満そうな顔。

(ああ、わたし)

「ちったあ声上げて抵抗してみろよ」
「ヤり甲斐ねーじゃん」

制服の上着のボタンが弾け飛んだ。
お構い無しに引っ張られ、ボタンは虚しく地面に転がる。履いていたサイハイブーツもソックスもその辺に放られる。

(……やっぱり、そうなんだ)

これからされる行為に対する恐怖より、たった今気付いた自分の大切な感情が汚されることの方が怖かった。
そういえば、1度も口にしていない。

「スカートも下着も全部脱がせ!そうしたら少しは嫌がるだろ?」


(クラサメくんが、好きなんだ)

そう思ったら一瞬だけとても心が穏やかになって、すうっと体が軽くなって、一気に地獄に叩き落とされた。

「っ――いやあ!!やだ!やめて……っ触らないで……!!」

叫んだ。
力の入らない体を無理矢理に動かして。

「おおっと、やっとか」
「それっぽくなってきたじゃん」

ばたつかせようとした足を押さえ付けられて、大腿から上に上にと手が這わされる。

「っやだ!気持ち悪いっ!はなっ」
「減るもんじゃねーだろ。毎晩ここでカトル様のもん銜え込んでんだろ?」
「っやぁ……!」

濡れてもいないショーツ越しにそこを撫でられ酷い吐き気がした。触るな、触るな、触るな。頭の中で幾らそう唱えても男の手は離れない。

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