「え、カトルさ」
一体自分はどんな顔をしていたのだ。
聞き返せなくも無かったが、カトルの様子から何となく躊躇われた。
「おまえをそんな顔にさせてる奴は、どんな奴なんだろうな」
そう呟いたカトルの言葉は、なんだか少し自嘲気味に聞こえた。
フィアは何も言葉にせず、ただ静かに彼の胸に顔を埋めて抱かれるだけ。
僅かだがカトルから先程嗅いだばかりの外のひんやりとした香りがして、妙に胸が切なくなった。
*
「じゃあフィアも魔法使えるんだな」
「うん。得意なのは火を使った魔法」
あれからリューゲはカトルの居ない時間に話し相手になるべく執務室をよく訪れてくれた。どうやら歳は結構近いらしく打ち解けるのも簡単だった。
彼は朱雀に特別恨みがある訳ではなく、ただ小さい頃から軍人になる教育を受けていたため今に至ったとか。
「シド元帥は朱雀はクリスタルに頼りすぎだ、って唱えてるけどさ。それでも魔法が使えるってすげーよな」
「そうかな?」
くすりとフィアは笑った。
自分やクラサメたちは皆、当たり前のように魔法を使うからそれが「普通」になっている。その為、すごいと褒められるのはなんだか新鮮だった。
「今もすぐ簡単に火起こせる感じ?」
少し興奮気味にリューゲが問う。
フィアは考えてから正直に話した。
「出来ると思うけど、半年くらい訓練してないし、もしかしたらクリスタルの加護も少し薄くなってるかもしれない」
気掛かりだったのはそれだ。
今までは魔導院の誇る1組の実力に相応しい位置にいたが訓練もせず、学びもせず、実戦に赴きもせずに半年近くの時が経ってしまっている。
もしかしたらクリスタルも呆れ返ってその恩知恵を与えてくれないかもしれなかった。
「へえ……」
「リューゲ?」
リューゲは何か考えるようにそう呟いてフィアから視線を外した。
期待外れだっただろうか。
ならば申し訳ない。
「あ、別に何でもないから。気にしなくていーからな」
フィアの雰囲気が暗くなったのに気付いたのか、リューゲは慌てて否定する。
なんだ、気を悪くした訳ではないのかとフィアはホッと胸を撫で下ろした。
「じゃあ、そろそろカトル様戻ってくる時間だな。俺も自分の仕事戻るわ」
「うん、頑張ってね」
バイバイ、とリューゲに手を振る。
扉が閉まるのと同じタイミングで、執務室にけたたましい雷鳴が響いた。
「っ!」
驚いて咄嗟に振り返る。
見るとガラス窓の向こうの空が真っ黒に染まっていて。
「かみ、なり?」
午後から天候が悪化するとカトルが教えてくれていた気がする。
そのまま窓ガラスを見つめていると、ポツ、ポツ、ポツと雨の滴が落ちてきて、だんだんそれは酷くなる。ザアザアと落ちる雨に代わり、積もっていた雪を中途半端に溶かし固めてしまう。
「ルブルムも雨なのかな」
ここからルブルムまで大分離れている。
もしかしたら向こうは晴れているのかもしれない。
「クラサメ、くん」
沛然と降る雨を見つめながら、フィアはカトルの帰りを待った。
Continued.