04(3/3)

「クラサメくん、おはよ」
「フィア、おはよう」

朝陽の降り注ぐ1組の教室。
最近なんだか距離の近付いたクラサメにいつものように朝の挨拶をした。彼も笑って返してくれる。

「今日の演習、同じ班だよね?」
「ああ、そうだったな。よろしく」

最近行った実戦演習以来クラサメとはよく同じ班になることが多くなった。二人のコンビネーションの良さを買ってのことだろう。


***


「っは!」

ザシュッとモンスターの皮膚を切り裂いて、フィアはすぐに散弾銃を撃ち込む。パァンッと乾いた音が響き敵が倒れる。

「クラサメくん、こっちは……あれ?」

モンスターを始末して後ろを向くが、今さっきまで後ろで別のモンスターと戦っていたはずのクラサメの姿がない。フィアは薄暗い洞窟の中をキョロキョロと見渡した。

「フィア」

すると背後で自分の名を呼ぶクラサメの声。なんだそんなところにいたのか、とフィアは慌てて後ろを振り返る。

「なんだクラサメくん、急にいなくなるからどこ行ったのかと……」

後ろを、振り返った。
クラサメの姿は無い。

「クラサメ、くん?」

返事はない。
しんとした洞窟。ジメジメと湿気った空気が肌を撫で、奇妙な静寂が背筋を伸ばす。コツ、コツ、と音を響かせクラサメを探すけれど。

「どこに、いるの?」

誰もいない。何もいない。
洞窟のなか。洞窟?そもそもこれは何の任務だった?ここは本当に洞窟なのか?クラサメは?あれは本当にクラサメだった?モンスターは?クラサメはどこだ?出口はどこ?見当たらない?他の候補生は?隊長は?通信は入らないのか?この任務の目的は?ここはどこ?ルブルムなのか?ミリテス領?クラサメくんは?クラサメくんは?クラサメくんはどこ?クラサメは?クラサ


「っクラ、サメくん……!」


勢いよく起き上がった。
荒くなった呼吸をそのままに、フィアは辺りを見渡した。

「目覚めたか」
「!?」

きっと自分に掛けられたのだろう。
落ち着いた低い声に慌てて声のした方を見る。

「白虎の、軍人……?」

すぐ近くに隻眼の青年がフィアを見下ろすようにして立っていた。寝かされていたようだがそこはベッドではなく黒い革張りのソファー。フィアは反射的に起き上がり武器を構えようと右手を動かしたのだが。

「っぁ!」

グンッと血管が持っていかれるような鋭い痛みが右腕に走った。よく見てみれば自分の右腕からは管が伸びている。そしてその管は上に向かい、金属の棒に吊るされている赤いパックの袋に繋がっていた。

「っここは」
「お前の言うように、白虎の土地だ」

隻眼の男は腕を組んでフィアを舐めるように見下ろした。警戒心を持ったまま男を睨み返すフィア。

「っう」

しかし突如胸に感じた激痛に左手で自分の胸を抑え顔を歪ませる。そういえば自分は確か撃たれたのだったか。

「大丈夫か?」
「っ触ら、いで」

伸びてきた男の手をパシッと弾いて拒絶する。男は特に気にした様子もなくそのままフィアを見下ろしていた。

「撃たれたんだ。誰かが治癒魔法をかけたようだが……傷は完全ではない。あまり無理をするな」

隻眼の男はそう言ってソファーから離れ自分の椅子なのだろうか、机の向こうの回転椅子に腰掛けた。
よく見てみれば部屋は広く、執務室なのだろう。男の机に椅子、そしてローテーブルに今フィアが寝ているソファーとそれとは別に1人掛けのソファーが2つ。

「あなたは?」

男に問う。彼は隻眼をフィアに向けて机に片肘を付き、その上に顎を乗せて不敵に笑ってみせた。

「カトルだ」
「カ、トル?」

年は自分より少し上だろうか。それにしたって白虎の土地でこんな広い執務室を与えられ、雰囲気的にもこの男は相当上流階級の人間なのではないだろうか。

「あなたの、部屋?」
「ああ」

短く返事をするカトル。
フィアは痛む胸を抑えながらカトルを真っ直ぐに見据えた。視線が絡む。

「なんで、助けたの?」

もし気を失っているところを見付けたのなら普通なら殺す。それをせず、怪我の手当てまでしてくれるなんて話の虫が良すぎるではないだろうか。

カトルは不敵な笑みを浮かべたまま何も答えずに此方をじっとみている。フィアも視線を逸らさず、カトルの隻眼を見つめたまま。

「助けたわけではない。あくまで捕虜として此方に連れてきただけだ」

徐に立ち上がり窓の外の景色を見ようとガラスのそこに近付くカトル。そんな彼の背をフィアは見つめたままだった。

白虎は捕虜をほとんど取らないと聞いたことがある。食料や物資が不足するからだ。だとしたら今彼の言ったことは出任せだ。呟いたカトルはもう一度フィアに向き直った。

「せいぜい、その顔に産んでくれた両親に感謝するんだな」

端正な顔の口元を歪めてそう言った。
彼の背後に見えた外の景色は、見慣れない街の色だった。



Continued.
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