*
「1組第09班、作戦開始します」
ミーンミンミン
作戦開始の旨を伝え、フィアは可変式の銃からエッジを振り出した。高い金属音が響き鈍色の刃が顔を出す。回りには既に敵か味方か、屍が転がっている。
硝煙の匂いが鼻をつんざく。乾いた夏の日差しが2人を照りつけ、空色の生地がはためいた。
「行くぞ、フィア」
クラサメの合図で2人は砂煙が絶えない最前線へと駆け出した。
走りながら、飛んでくる銃弾を身軽にかわしクラサメの手から冷気が放たれる。空に浮かぶ熱の塊に似合わないそれは溶ける様子なく皇国兵を死に追いやった。
「はっ!」
対するフィアも果敢に向かってくる数十人もの兵を相手に自らの武器を朱に染めている。
「ぎゃあああ!!」
「や、やめてくれ!」
響く断末魔、飛び散る朱。
空が朱に染められる。掛かる飛沫を腕で拭い、目の前で弾丸を爆発させる。隠れようとする臆病者に弾を撃ち込み、再び刃を振り出す。味方の朱雀兵に加勢し、放たれ続ける銃弾から守る為の巨大なウォールを作り出す。
「た、助かった。ありがとう!」
「どういたしまして。次が来ます」
そんな些細なやりとりすら、死んでしまっては思い出せなくなる。後悔はしたくない。
「くそ!これならどうだ!」
「甘いな」
ガシャンガシャンと大きな機械音を立てて目の前に現れた魔導アーマーだったが、クラサメの唱えた魔法によりそれは一瞬で役目を終えた。否、一秒と役に立ってはいない。
「敵が多くなってきたな。フィア、気を抜くなよ」
「了解」
フィアがパチンと指を鳴らせば皇国兵の足場が吹き飛ぶ。
流れ弾に当たらないよう素早く身を翻し、2人は更に前線へと進んだ。
絶えず聞こえる爆発音、銃声、そして絶たれた命の最後のこえ。
「これで」
フィアの手の中で炎が揺らいだ。
その手をばっと前に翳すと数十人の皇国兵が炎の壁で覆われる。灼熱のそれに、熱気だけで彼らの纏う衣は溶かされる。じりじりと、じわじわと、焦げ付くような熱さは皮膚にまで達し、悶え狂う。
「終わりだ」
せめてもの慈悲か否か。クラサメが辺り一帯を銀世界に変え、彼らの生は幕を閉じた。
「つ、強い」
「さすが氷剣の死神、か」
四天王と呼ばれる彼でなくとも、フィアとて1組の一員。負けず劣らず、十分すぎるほどの戦力だった。
ミーンミンミン
「……おかしいな」
剣に付着した赤いそれを振り落としながらクラサメが呟いた。気付けば周りに味方は少ない。既にここはミリテスの領地なのだろう。
「クラサメくんも、そう思う?」
辺りを見渡して、フィアも言う。
確かにおかしいのだ。2人は最前線に呼ばれたはずなのに、明らかに敵の人数が少ない。ざっと見渡しても倒した兵の数はそう多くはない。それでも軽く3桁は越えるだろうが。
ミーンミンミン
向かってこようとする皇国兵も気が付けばもうほとんどいない。兵器や魔導アーマーの姿もまったくと言っていいほど見当たらない。
「おかしい」
クラサメがまたゆっくり呟いた。
ふっと視線を屍の山に向ける。いくら何でも最前線でこの兵の数。まるで戦う気が無いのか、領地を譲ろうとしているかのようで。
ミーンミンミン
「フィア、一旦本部に連絡を」
「!クラサメくんあぶなっ……」
ぱしゅっ、と。音がした。
next