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「おっはよ〜、フィア!」
「っエミナ、危ないって」
次の日。
いつものように突然背後から抱き着いてくるエミナを慌てて受け止めて、そんな彼女の肩越しにフィアは笑った。
「おはよ、クラサメくん」
「おはよう、フィア」
心なしか2人の雰囲気はいつもよりあたたかかった。
「あれ?なーんか2人ともいつもと雰囲気違くないかい?」
「なんか柔らかいわよね?」
そしていつも一緒にいるからこそそんな2人の変化に目敏く気付く別の2人。クラサメとフィアは顔を見合わせてくすっと笑った。
「そんなことないよ」
「そんなことないさ」
「カヅサもおはよう」とフィアが告げると眼鏡のブリッジを押し上げながら苦い顔でカヅサがため息をついた。
「僕“も”って」
「あら、カヅサはついででいいんじゃないかしら?」
「エミナ君まで!?」
がくん、と肩を落として項垂れるカヅサの背をドンマイと叩くクラサメ。あまりフォローにはっていないが。
「そういえばクラサメ君、昨日3組の子に呼ばれてたわよね?」
そんなカヅサを差し置いてエミナが思い出したようにクラサメに言う。それからうーん、と顎に手を当てて考える仕草を見せる。
「何で3組の子じゃなく、フィアとクラサメ君が良い雰囲気なの?」
エミナにとっては純粋な疑問だった。確かに2人の雰囲気を見ているとなんだか今までより格段に幸せそうな、あたたかい何かが出ている。
フィアは苦笑いしてエミナの肩をぽんぽん叩いた。
「そんなんじゃないって、エミナ」
確かにクラサメは呼び出されていて、昨日たまたまその裏庭に来ていたフィアと会ったが。
「だってなんか2人とも昨日より仲良くなってる〜」
恨めしそうにクラサメを睨むエミナ。
こほん、と咳払いをしてそんなエミナにクラサメは。
「気のせいじゃないか」
しらばっくれてみせた。
「ええー?」と復活したカヅサも応戦して見せたが2人のガードは鉄壁で。カヅサとエミナが2人の変化を聞き出すことは出来なかった。
「始めるぞ」
隊長の一声が教室内に響き、それぞれが自分の席へと足を急がせる。フィアも窓際の自分の席へ戻ると、前の席のサユがにやにやして此方を見つめてきた。
「何あれクラサメ君と何かあったの?」
サユもか、とフィアは苦笑を溜め息と共に逃がして椅子に座った。今日も太陽の光が眩く彼女の席を照らす。
「何も無いよ。エミナの思い込み」
決して何も無いわけではないのだが、何かあったかと言えば何も無い。
「ええー超気になるじゃん」
こっそりと聞いてくるサユ。
フィアは教科書の言われたページを開いてノートを開いた。ちらり、と席の中心へ視線を向ければ彼の真剣な横顔。
「あ、いらない情報かもだけど、クラサメ君3組の子振ったらしいよ〜」
じぃーっとフィアを見つめていうサユの背をぺしりと叩いて前を向けと促した。「ちぇー、つれないなあ」と愚痴を溢して渋々前を向くサユ。
漸く授業に入ったサユの背から隊長へ視点を映し、ふっとフィアは光の注ぐ方へ視線だけ向けた。
春の終わりを告げる風が、フィアの見つめた窓の外でサクラの花びらを舞い散らせた。
Continued.