じわじわじゅっこめ。(1/1)

「レオン!」

ホワイトハウスに出勤して早々、アシュリーに人差し指を向けられて凄まじい顔で睨まれた。何かしたか、俺。

「可愛い顔が台無しだぞアシュリー」
「可愛いとか思ってないでしょ!」

ピシャリと言って退けて相変わらず難しい顔で俺を睨んでいる。アシュリーにしては珍しい態度に僅かに期待する。

「七瀬に何したの」

ああやっぱりか。期待通りのアシュリーの言葉に嬉しいような複雑な気持ちになる。嬉しいじゃないな、喜ぶべきことではない。

「知ってるのか」
「っやっぱり何かしたのね!」

キスしたんだなんて言ったらどんな顔されるだろうか。怖いので言わないでおこう。怒った様にアシュリーは足と腕を組んでソファーに座った。

「七瀬から電話が掛かってきたのよ」

なんとなく口を挟む気にはなれず、アシュリーの言葉を黙って聞く。その方が早く七瀬の状況を知れると思ったからだ。

「レオンに酷いことしちゃったって、自分のこと責めてた」

酷いこと?突き飛ばしたことか?手を払いのけたこと?そんなの全然酷くないじゃないか。悪いのは彼女じゃない。元々大きかった罪悪感がじわじわと広がっていく。

「もしかしてレオン、七瀬に無理矢理キスとかしたんじゃないの」
「………」

どうしてこういう時の女ってのは勘が良いのだろうか。その勘の良さを少しは見習ってみたい。何も答えない俺にアシュリーは大きく息を吐いて見せた。

「あのね、レオン」

仕方ない、そんな表情でアシュリーが話始める。

「七瀬はね、ちょっとした男性恐怖症なの。」
「男性恐怖症…?」

何かが府に落ちた。
名前だけなら聞いたことがある。

「普段カフェとかでは頑張ってるけど、最初に付き合った彼氏が原因でそれ以来私生活において男の人に触られたりするの怖いんだって」

次は頭を抱えたくなった。
考えて見ればわからなくもない。
七瀬が車で迎えに来ることを拒んだのは俺と二人きりの空間になるのが怖かったから?レストランでナイフを拾う時指が触れただけで大袈裟に驚いたのもその所為か。

「でも、レオンと仲良かったみたいだからちょっと安心してたのに」

そう言ってアシュリーはまた俺を睨んでくる。睨まれて当然だな…。

「レオンがそんなに手が早いと思わなかったわ、ちゃんと七瀬に謝ってよね?」

まさか年下のアシュリーに説教される日が来るとは思ってもいなかった。けれどこればっかりは完全に俺に非がある。

「…食事、行ったんでしょ?七瀬がそこまで許してるんだから、きっとレオンのこと好意的に見てると思うわ。だからもしレオンも七瀬のこと好きなら、ちゃんと七瀬のペースに合わせてあげて?」

「わたしからはそれしか言えないから」そういうとアシュリーは恐らく課題なのだろう、レポートに手をつけ始めた。そんなアシュリーに軽く謝罪と感謝の気持ちを伝えて、やっぱり今日の夜七瀬のところに行くべきだなと決め直した。

大きな白い枠の窓から見えるのは太陽に照らされた鮮やかなグリーンの植物たちで、七瀬が入れてくれた紅茶のカクテルの一層目を連想させた。

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