ようやくじゅういっこめ。(1/1)

どうやって謝ろうかなんてまったく考えていなくて、取り敢えずアシュリーから七瀬の部屋の番号だけ聞いてそこに向かっていた。一週間近く考える時間はあったって言うのに情けない。肝心の謝罪の言葉を考えていないなんて。

「ここか…」

一週間前にちょうど七瀬と別れたレンガ造りのアパートの前。エントランスをくぐって階段を上がり、聞いた部屋番号を探す。当たり前と言うか簡単にそこは見つかって、深呼吸を一つ。チャイムを鳴らす。

「………」

居ないのだろうか。少し待ってみても何も返ってこない。取り敢えずもう一度鳴らしてみよう、腕を持ち上げた時、扉の向こうで息を詰まらせる音が聞こえた。

「七瀬…?」

少し扉に近付いて耳を澄ませる。
これはもしかして…、ドアには除き穴が一つついている。相手が俺だから怖いのだろうか。確かにあんなことがあって連絡も無しに突然家に来られたんじゃ怖がられても仕方がないかもしれない。

(どうするか…)

謝りたいと言うのは俺の一方的な気持ちで。七瀬はまだ俺とまともに向き合える程回復していないのかもしれない。ショックだっただろうし、信用し始めてた男に急にキスされたんだから。
だけどこの機会を逃したら七瀬が離れていってしまうような気がして、俺はそっとドアに手をついて口を開いた。

「七瀬、そこにいるんだろ?」
「っ…」

息を潜める音が今度ははっきりと聞こえた。やっぱり、彼女はそこにいる。

「わかった。出なくていい。そのままでいいから聞いてくれ」

ごそっと動く気配がした。
ドアに耳を近付けてくれたのだろうか。それとも聞きたくないと部屋に戻ってしまったか。どちらでも構わない、それはそれで仕方無い。取り敢えず俺は今自分の気持ちをちゃんと伝えたい。また勝手な話だけどな。

「悪かった…。君に謝りたかったんだ」

謝罪文なんて考えていなかったのに、一言そう呟いたら頭にはすらすらと言いたいことがちゃんと浮かんできた。

「アシュリーから聞いた。七瀬の気持ちも知らないで、本当にごめん。」

届いているかはわからない。
これで聞かれて無かったら俺は相当間抜けな笑い者だけれど。

「許してくれとは言わない、ただちゃんと謝りたかったんだ」

七瀬の為だったら、それでもいい。
晒し者でも見世物でもなんだっていい。

「七瀬、俺は君が好きだ」

ガタッとドアの向こうで何かが落ちる音がした。ああ、ちゃんと聞いてくれてるのか。

「出来心とか勢いとかじゃない、君が好きだからちゃんと謝りたかった。」

もしこのまま嫌われたとしてもちゃんと真意を知った上でそうしてほしかった。七瀬の言う通り、俺は相当強引で自分勝手な男だな。

「聞いてくれてありがとう。それだけちゃんと話したかったんだ。」

聞いてくれたのならそれでいい。
あとは彼女が自分自身で判断するだろうし、俺は口を挟む資格なんて無い。

「じゃあ、おやすみ。マスターが心配してたから、来週はちゃんと顔出してやれよ?」

暫く俺はカフェには行かない方がいいだろうな。七瀬のためにも。
何か返ってくるか少し期待したけれど、相変わらずドアは無機質に沈黙を守るだけ。あまり長居しても未練がましい男に思われるだろうし迷惑に成りかねない。
俺はその言葉を最後に踵を返した。

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