そんなむっつめ。(1/1)

夜は少し過ごしやすくなっただろうか。残暑が厳しくもやもやとした日が続いていたが最近は夜になると爽やかな風が拭いていたりしてシャツ一枚で過ごすにはほんの少し肌寒い気がした。
店内から一歩外に出るとまるで別世界のように落ち着いた空気が広がっている。ダウンタウンからは少しだけ離れた隠れ家みたいなこのカフェの雰囲気に合った静かな通り。

「お待たせしました」

控え目にヒールの音が聞こえて、そっちに目を向ければ店の裏口から出てくる七瀬が見えた。

「ちょっと肌寒いですね」

そういう彼女の格好は白いフレアスカートに上は薄手のニットのチュニック。確かに薄いニットでは少し寒そうだ。

「これでよければ、羽織るか?」

自分の着ているスーツの襟を掴んで見せる。本当は車でここまで迎えに来るのが一番の方法だったのだけれど、向かうホテルのレストランが目と鼻の先で、車より歩きたいと七瀬のリクエストから二人でそこまで歩くことになったのだ。
けれど田舎町でも無いし交通手段には困らない。それにいつも仕事に行く時も車で来るなと言われているから対して困りはしないのだ。

「あ、いや、良いです、大丈夫です」
「でも寒いんだろ?」

胸の前で慌てて手を振って断る七瀬。遠慮なのか嫌なのか判別は出来なかったけれど無理強いは良くないか。

「レストランすぐですし、レオンが風邪引いちゃいます」

そこまでで俺は引くことにした。
「でもありがとうございます」とにっこり笑う七瀬。そういえば彼女の私服を見るのは今日が初めてだった。いつも着ているパリッとした白いシャツと違って少しカジュアルな、けれどフレアの白いスカートが女性らしさを出していて彼女らしい。ふわふわと揺れるスカートから綺麗な足がいつもより出ている。

「私服で会うのは初めてですね、なんか恥ずかしいな」

ちょうど考えていたことを七瀬が口にしてはにかむ。ゆっくりと七瀬のペースに合わせて歩きながら時々ポツポツと会話をする。

「いつもカフェの制服だからな。似合ってるよ、可愛い」

ちらりと七瀬を見て言うと照れくさそうに笑っていた。

「お世辞でもレオンに言われるとなんか嬉しいです」
「なんだよそれ、」

お世辞じゃないんだけどな。

「なんとなくです」

くすりと笑う七瀬を見て笑顔が似合うんだな、なんて考える。今更か。彼女の笑顔は結構見てきている。朝カフェで迎えてくれる時の笑顔、話してる時の冗談を言う笑顔、冗談を言った時に返してくれる笑顔。ああ、なんだ。

(重症だな…)

どうやらやっぱり七瀬の笑顔に心底惚れ込んでるみたいだ。コツコツと七瀬が歩く度に響くヒールの音が妙に心地良かった。

「レオンも、背が高いからスーツよく似合ってますよね」
「そうか?」

飛び抜けて身長があるわけではないけどな。七瀬に言われるとやっぱり嬉しい。けれど少し悪戯心が芽生えて、

「180越えてる男なんてザラに居ないか?」
「わたしの頭、日本人基準なんですよ」

成る程。
七瀬にしてみたら十分高いんだな。

「でも、かっこよく見えるのは背が高いだけだからじゃないですね」

悪戯っぽくこちらを見て七瀬がクスクスと笑った。

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