体 温 潜 熱(2/6)


「レオン?」

オフィスに向かう廊下で前方から歩いてくる彼を見付けた。夜勤明けであまり働かない頭で今日帰ってくると聞いていたような事を思い出す。こんな早い時間だったとは思わず少し驚いてしまった。

「……なまえか」

こちらに歩いてくるレオン。
あれ、でも何か…表情に元気がない。
それに大抵廊下を歩いている時はいつも彼の方が先になまえに気付いて話し掛けてくる。今回は珍しくなまえの方が先。

「お疲れ様です。任務完了?」
「ああ、今朝こっちに戻ってきた」

肩をゆっくり竦める動作をした後視線が絡む。眠いのか疲れているのかなんだかいつもよりぼんやりとした表情のレオン。

「じゃあこれから簡易報告して帰宅睡眠コースですかね?」

持っていた書類のファイルを抱えて首を傾げるなまえ。任務帰りの帰宅睡眠コースは彼女のお決まりのコースだったりする。今週は特にそれといった任務も無いのでデスクワークが中心だったが。

「いや…、この後すぐに警護の任務が出ててな」
「警護!?」

信じられないと目を見開くなまえに苦笑するレオン。そんな仕草さえ彼は様になっている。
しかしどうだろう。いくらエージェントとは言えもう少し人間らしい扱い方はしてやれないのだろうか。勝手の知れない地に一週間近く派遣されて命からがら帰ってきた彼を休ませもせず警護だなんて。

「警護ぐらいならわたしがやるのに…」
「課が違うからな」

ポツリと呟くなまえの頭をぽんぽんと撫でるレオン。

「さて、じゃあ補佐官のところに…っ」
「レオン!?」

続くはずの言葉が途中で途切れてふらりとレオンの体勢が崩れそうになる。慌ててなまえは彼の体を支えようとするがなんだか縋るような形になっている。

「大丈夫ですか?」
「悪い…、ちょっと目眩がして」

頭を片手で抱えるレオン。さらりと彼の前髪が靡く。そんな様に見惚れそうになるなまえ。けれど何気無くレオンの胸に手をついた時に一瞬で彼女の意識は戻ってきた。

「レオン…、体熱くないですか?」

ぺたりと今度は肩に触れる。
そう、最初に会った時に感じた違和感は正に当たっていて、彼の体はいつもより明らかに熱を持っている。どこかぼんやりとした双眸も勘違いではない。

「なまえがそばにいたらいつだって…」
「冗談は今日はお休みです。ほんとに、熱あるでしょう?」

体を少しだけ支えたまま厳しい、けれど心配した眼差しで下から見上げる。よく表情を伺うと瞳の水分量がいつもより豊富そうだ。これは明らかに風邪っぴきとしか言いようがない。

「………」
「黙ってても駄目です。わたし、補佐官に言ってきますから帰る準備しといてください」

何か言いたそうな顔のレオンを敢えて無視して補佐官の元に向かう。こんなふらふらして熱もある状態で護衛なんて出来るはずがないだろうに。もし自分と会ってなかったら彼は警護の任についていただろう。危ない危ない。

取り敢えず大統領補佐官に彼の体調の事を伝えよう。さすがに熱もあってフラフラで任務明けと言えば食い下がってくれるだろう。もしそうでなくとも食い下がらせる気は満々だが。大体あの補佐官はたまに日本人だからと見下したような態度がほんとにたまにあるのだ。それは気に食わない。

「ああ、本題からずれてる」










「レオン、帰宅許可下りました。」

彼のデスクのある部屋に入ると何をするわけでもなくぼうっと自分のデスクに座っていた。ああ駄目だ、眠いのと熱いのと疲れできっと上手く頭も回ってないんだろう。

「わたしももう上がりなんで、送って行きますよ。帰りましょ?」

レオンを送って行くだなんてなんだか変な感じだけれど。いつもは逆に彼に送られる側だから尚更。眠そうな彼の背を撫でて立ち上がって貰うと若干危なっかしいレオンを支えながら駐車場まで向かった。

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