ノン インプリンティング!(5/6)


「ちょ、なまえ…ま、」
「いいから座りなさい!」

そう言われてしまうと悲しいかな、昔からの習性で体が無意識に反応してしまう。長い足を折り曲げてその場で正座させられるスコール。完璧に昔のデジャヴだった。

「あのね、そういう事は好きな女の子に言うものなの」
「っ…だから、なまえに…」

ばっとなまえを見ると険しい表情のまま腕を組んで自分を見下ろしていた。

「スコールくん、それは刷り込みって言ってね。昔からずっと一緒にいるでしょう?動物が生まれて最初に見た動物を母親だと思い込んでついていくのと同じ…」
「そうじゃなくて」

そんな単純な気持ちであればあんなムキになったりしないし変な独占欲だって湧かない。思わずなまえの言葉を遮ると案の定また怖い顔でスコールを見るなまえ。

「人の話は最後までちゃんと聞きなさいって、むかし…」
「なまえ」

正座したまま鋭い視線をなまえに向ける。
温厚で優しい性格で、生真面目で。確かにそうだったけれど、頑固だと言うのも付け加えていいかもしれない。

「スコール、なんか今日反抗て…」
「…、説教を聞く気はないからな!」

どうして自分が口を開くと全部お説教で返されてしまうのだろうか。それは単純な話、なまえが自分のことを“弟”として見ているからだ。

(言ってもわからないなら…)

行動で示すしか無いのだろう。
声を荒げたスコールに驚いたのか、なまえは目を丸くしている。今がチャンスだ。
思うが否や、スコールは組んでいた足をほどき立ち上がるとなまえの腰を自分の方に引き寄せた。

「っわ、」
「いい加減にしてくれ」

ぐっと間合いを詰めて一気になまえの顔が近くなる。驚いて自分を見つめ返してくるなまえ。

「なまえは、いつもそうやって…」

背は自分の方が高い。
そっとなまえの頬に手を添えて、驚いて開いたままの唇に自分のそれを当てる。柔らかな感触が伝わってきてなんだか安堵した。

「っスコー…」
「わかっただろ、俺の気持ち」

ぱちぱちと目を瞬いてなまえがスコールを射るように見つめる。うっすらと頬は赤らんでいて、なんだかこっちまで気恥ずかしくなってくるがそれは駄目だ。

「なまえが好きだ」
「っ……」

ぱっと目が逸らされた。
何かを考えてなまえが自分の唇にゆっくりと触れる。俯いていて表情は見えなかったけれど、頬だけでなく覗いた耳も僅かに赤かった。

「そんな…いきなり…」

絞り出すような小さな声がして、ちゃんと聞こえるようにとスコールはまたなまえに近付く。するとなまえの肩が大きく跳ねた。

「あ、や…スコール…、その…」

俯いたりこちらを見たり、なまえがもじもじと動く。これは、脈ありなのだろうか。となればあともう一押し…

「なまえ、」

ぎゅっと、戸惑うなまえを胸に迎える。ぽんぽんと背中を擦ってやると強張った力が抜ける。鼻腔をなまえの香りが掠めて。

「……本気だったんですね」
「当たり前だろ」

返事の代わりに背中になまえの手の温もりを感じた。



*



「そういえばスコール」
「なんだ?」

何かを思い出したようにぱっと体を話してなまえがスコールを見上げる。

「私、まださっきの子と話の途中で…」
「………」

なまえの眉間にシワが寄った。

「人が他の人と話してる時に突然腕を引っ張ったりするなんて危ないでしょう?」
「いや、それは…だから、」

じわりじわりとなまえが詰め寄る。
咄嗟に後ずさるスコール。

「言い訳は許しません!ちょっとそこに座りなさいっ!」
「っ……!」


結局スコールはこの日、二度なまえからお灸を据えられることになるのであった。


*fin*
next → あとがき。


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